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この薬は“発情抑制剤”
オメガでいる俺を、俺でいさせてくれる薬だ。
姉は鍼灸師ではなく、薬剤師と言う道を選んだ。
それは俺がオメガだったからと言うことではない。
母親が ガン で死んだからだ。
俺が小学4年の時に母は卵巣癌になった。
異変に気づいた時には卵巣からリンパに転移していて、手遅れだった。
父は自分が病気を見つけられなかったことを悔やんでいたが、必死に母を治そうと頑張っていた。
その時、父が知り合いに頼んで漢方を出してもらったりして、最初母の余命3ヶ月と言われていたのに、3ヶ月過ぎても生きていたから、このまま治るんじゃないかと淡い期待をしたが、
最終的には緩やかに体力は失われ、8ヶ月後、クリスマスの前日に自宅で眠るように この世を去った。
ガンによる痛みが出なかったのが、唯一の救いだった。
姉が薬剤師になろうと思ったのは恐らく、そこからだろう。
そしてその決定によって最新の薬を入手することができ、自分は救われている。
「姉ちゃん、いつもありがとうね」
「よかよか!」
姉は手を振って感謝の言葉を恥ずかしそうにしている。
「この後予約入っとるん?
入っとらんかったら治療してくれん?
肩がカチカチやけん…」
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