濡れて艷めく秋の日に

6/24
前へ
/261ページ
次へ
「んっふぅ……んっん、んぅ」 祥悟の小さな頭を両の手で閉じ込めて、覆いかぶさりながら、深く深く蜜を吸う。 唇が重なるだけじゃ全然足りない。互いの口を食べ合うように、深く、もっと深く舌を絡ませる。背筋を、蕩けそうに甘い痺れが何度も走り抜けた。 ……ああ……熱い。頭が、沸騰する……っ 急激に上がった熱が身体中を駆け巡る。息継ぎも出来ないような密着感に、のぼせたようになっていた。でも苦しくはない。いや、むしろこの甘苦しさが震えるほど嬉しい。 ……祥。祥。祥っ どうして距離を置こうなんて思ったのだろう。今まで生きてきて、こんなにも傍にいたい相手なんかいなかったのに。 あの出逢いの瞬間からずっと、囚われ続けてきた。いつか別れの日が来るのなら、その瞬間まで、限られた時間を共に過ごさないなんて馬鹿げてる。 「……っく」 「んっはぁ……っ」 背中に回った祥悟の手に力がこもる。少し苦しげに鼻から荒い息を漏らし、ギリギリと爪をたてる。 智也は噛み付くようなキスを少し緩めた。重なる唇の間で、2人分の荒い呼吸が熱を放つ。 「だい、じょうぶ?、っ祥」 「なわけ、ねーじゃん。おまえ、がっつき過ぎ」 はあはあと酸素を取り込みながら、睨みあげてくる祥悟の目が涙で潤んでいた。 「っ、ごめん」 「謝るなっつの。誘ったの、俺じゃん」 言葉つきは荒いが、祥悟の声音が甘くて優しい。そう感じるだけで、目の奥がじわっと熱くなって困った。 智也がそのまま離れようとすると、すかさず伸びてきた手が、頭の後ろをがしっと押さえた。 「も、おしまいかよ?」 「でも、祥、ここ」 祥悟は楽しげににぃーっと笑うと 「色気ねえよな。こんなとこでさ。でも、おまえが悪いんだぜ、智也。飯食うって誘おうとしてもさ、おまえ、俺のことずっと避けてたじゃん」 「っ」 ……え。誘おうとしてくれてたのかい?いや、俺が避けてるって気づいてたの? 智也が驚いて目を見張ると、祥悟はふんっと鼻を鳴らして 「そうやって、すぐすっとぼけんのな。ま、別にいいけど」 「祥、俺は、」 「で。キス、続けんの?それともこれから飯、食いに行く?」 智也は咄嗟に、祥悟の濡れて紅くなった唇を見つめてしまった。その視線に気づいた祥悟が、ふふっと噴き出し 「飯より俺の唇かよ?」 「あ。いやっ」 智也は焦って目を逸らすと 「食事、行くかい?」 「ん。俺、今日は朝からなんも食ってねーの。どっか美味いとこ、連れてってよ」 屈託なく笑う祥悟の顔が、懐かしくて眩しくて、智也はじわりと滲んでしまった涙を、瞬きで散らして頷いた。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加