第1章 舞い降りた君

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衣装ルームの扉の前で、智也は深呼吸して表情を引き締めると、音を立てないようにそっと扉を開けた。 悪戯が成功した子どものように、満足そうにほくそ笑んでいるだろうと思っていた祥悟は、智也の予想に反して、部屋の奥で荷物置き場状態になっている、古いソファーに寝そべっていた。 ……この状況で呑気に寝てるのか? 智也はちょっとむっとして、つかつかと祥悟に歩み寄った。積まれたダンボールの脇からひょいっと覗き込んで、智也ははっと目を見張った。 祥悟は長い手足を抱え込むようにして、ソファーの隅で丸まっていた。まるで仔猫か、母親の胎内にいる赤ん坊のように。 その寝顔はひどくあどけなくて、さっき自分をおちょくっていた、あのクソ生意気で無駄に色気のある少年とは、別人のようだった。 智也は息を潜め、忍び足でソファーに近づくと、祥悟の前に膝をついた。 すよすよと心地よさげに眠る祥悟の目の下には、うっすらと隈がある。現在売れっ子モデルのこの少年は、雑誌の撮影やらテレビ出演やらで、このところ超過密スケジュールの毎日だと聞いている。 ……そうか……。疲れてるんだな。寝不足なのか。 撮影と取材の合い間の休憩や移動では、充分な睡眠時間を取れないのだろう。
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