第4章.君との距離感

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智也がもやもやした気持ちを持て余していると 「椎杏さんとさ、こないだホテルで過ごしたじゃん??」 よりにもよって、一番聞きたくて、聞きたくない話を持ち出してきた。 「ああ。そうだね。その話が途中だった……」 智也はポーカーフェイスを作りながら、真っ直ぐに前を向いてハンドルを右にきった。 もうすぐ、海が見える公園の駐車場だ。 「一応さ、智也に教わった通り、いろいろやってみたのな」 「そうか。……上手くいった??」 「んー……まあ、思ってたより呆気なかったし。こんなもんかな……って感じだった。でもおまえに教えてもらってたから、俺、もたもたしないで上手くやれたのかも。……ありがとな、智也」 智也はそっと唇を噛み締めた。そんなことでお礼を言われたって、ちっとも嬉しくない。 ……というより……苦しい。 胸の奥の冷たいものが、ずしんと重さを増していく。 ……期待なんかもちろん、していないんだ。でも、苦しいよ、祥。君のことをもっと知りたい。でも……知りたくない。 公園近くの商業施設に車を停めて、2人並んで海沿いの道を歩いた。 海……といっても、砂浜のある地平線の見える広々とした海ではない。ここは、古くからある漁港の周辺が開発されて、運河の周りには近未来的なビルが立ち並んでいる場所だ。 潮の香りを含んだ風が、祥悟の髪の毛をふわふわと揺らしている。 少し先を軽やかな足取りで歩く祥悟の姿を見つめながら、智也は独り、物思いに耽っていた。 このまま祥悟の近くにいて、彼のこれからの成長を見守るのは、今の自分には無理かもしれない。 傍にいれば、当然もっと彼のことが知りたくなる。でもゲイの自分が、ノンケの彼のことを知るということは、きっとさっきみたいなせつない思いの連続なのだ。自分の気持ちを、彼に打ち明けない限りは。 もし自分が、もっと歳がいっていて、人生経験も豊富で、恋をすることにも手慣れていたら、どっしりと構えて、動じないでいられるんだろうか。 ささいなことで浮いたり沈んだりせずに、ゆったりと広い心で、祥悟のことを見ていられるのか。
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