第4章.君との距離感

16/19
前へ
/261ページ
次へ
多分、自分はまだまだ未熟で、人を本気で好きになるのも初めてだから……。 そう。初恋、なのだ。 自分のこの想いは。 そして、自分がゲイと自覚したのも、ついこないだのことだったのだ。 未熟で当然だし、経験値も少ない。 きっと当たり前だ。 でもどうして……初恋の相手が、よりにもよって彼だったのだろう。 どうしてこんな歯がゆい自分が、彼と出会ってしまったのだろう。 もっと遅くに、せめて数年先に、運命の人と出逢わせてくれたら……自分はもっと上手く、恋することが出来たのかもしれない。 「なあ、智也」 不意に、祥悟が自分を呼ぶ声が、堂々巡りの自分の物思いをかき消した。 我に返って、声のする方を見ると、もうそこは海沿いの公園の入り口だった。 祥悟はポールの上に腰掛けて、こちらを見ている。 「ああ……なんだい?」 智也が暗い想いを打ち消しながら微笑んで答えると、祥悟は首を傾げて 「おまえ、歩くの遅すぎ。せっかくいろいろ話したくて、店出てきたのにさ」 そう言って口を尖らせる。 ひとつひとつの仕草が、なんて絵になる子なんだろうと思う。 もし自分が、写真や絵をやる人間ならば、こういうシーンを決して見逃さないだろう。 彼よりも整った美しい顔の人間は、他にもたくさんいるかもしれない。でもこういう何気ない一瞬を、切り取って残したいと切望させるオーラを持つ人間は、そうそうはいない。 ……彼に恋してる自分の、欲目を抜きにしても。 智也はつられるように、自然と笑顔になっていた。 「ああ。ごめん。ちょっと思索に耽っていたんだ」 祥悟は呆れたように眉をあげ 「やっぱおまえって、ちょっと変わってるし。思索に耽るってなんだよ、それ。意味わかんねえから」 そう言って、くすくす笑った。 「いろいろ悩み多き年頃なんだよ」 祥悟の笑顔が嬉しくて、つい軽口が飛び出す。 「ふーん。智也でも悩んだりするのかよ」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加