247人が本棚に入れています
本棚に追加
苦笑する智也に、祥悟はちょっと不思議そうな顔をした。
「それってさ、恋の悩みってやつ?」
「うーん……どうだろう。いろいろ、かな。仕事の悩みとか、将来のこととか、ね」
「ふーん……」
それ以上、危うい話になるのが嫌で、智也は苦笑して祥悟から目を逸らした。
こんなもやもやした気持ちのまま、祥悟とその話題を続けていたら、隠している想いがきっと溢れ出してしまう。
今はダメだ。まだふんぎりがつかない。
どんなに苦しくても、自分はやっぱりこの子の傍にいたい。決定的な別れを、今はまだしたくない。1度出してしまった言葉は、取り戻せないのだから。
「仕事とか将来とか、俺はどうでもいいや。やんなきゃなんねーこと、こなすだけでいっぱいいっぱいだし。でもさ、智也がいろいろ悩んでんならさ、愚痴ぐらい聞いてやってもいいけど?」
何故かちょっと得意気な祥悟の声音に、智也はそっと横目で彼の表情を窺う。
「俺、施設入る時いろいろあってさ。今は普通に話せてるけど、2年ぐらい話せなくなってた時期あんの。今でもほんとは人と話すの苦手なのな。だから里沙以外でこんなに話やすい相手ってさ、智也が初めてなんだ」
祥悟の口調は全然深刻そうではない。まるで世間話をしているような軽さだった。
でも……話せなくなるっていうのはよっぽどのことだろう。
この子は、自分が考えているよりも、もっとずっと重いものを背負っているのかもしれない。
……そんな気がした。
「そうか。それは光栄だね」
なるべく軽い感じで言葉を返すと、祥悟は立ち上がり、すたすたと歩み寄ってきて
「俺の兄さんになってくれるって、智也、言ったじゃん? 俺、すげえ嬉しかったんだよね」
言いながら、顔を覗き込んでくる。
その無邪気な笑顔にドキッとした。
「おまえがやじゃないならさ。俺、もっと智也といっぱい話したいんだ。俺の相談聞いてくれるだけじゃなくてさ。おまえの話も聞いてみたいの」
「祥……」
「そういうのって、うざい? やっぱ迷惑?」
「まさか。うざくないよ。嬉しいよ」
「そっか」
祥悟はほっとしたような顔をして、智也の腕をぐいっと掴んできた。
「じゃあさ。智也も俺に愚痴言えよな。なんでも聞いてやるからさ」
そう言ってドヤ顔をしてみせる祥悟を見ていたら、ちょっと泣きそうになった。
最初のコメントを投稿しよう!