第4章.君との距離感

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苦笑する智也に、祥悟はちょっと不思議そうな顔をした。 「それってさ、恋の悩みってやつ?」 「うーん……どうだろう。いろいろ、かな。仕事の悩みとか、将来のこととか、ね」 「ふーん……」 それ以上、危うい話になるのが嫌で、智也は苦笑して祥悟から目を逸らした。 こんなもやもやした気持ちのまま、祥悟とその話題を続けていたら、隠している想いがきっと溢れ出してしまう。 今はダメだ。まだふんぎりがつかない。 どんなに苦しくても、自分はやっぱりこの子の傍にいたい。決定的な別れを、今はまだしたくない。1度出してしまった言葉は、取り戻せないのだから。 「仕事とか将来とか、俺はどうでもいいや。やんなきゃなんねーこと、こなすだけでいっぱいいっぱいだし。でもさ、智也がいろいろ悩んでんならさ、愚痴ぐらい聞いてやってもいいけど?」 何故かちょっと得意気な祥悟の声音に、智也はそっと横目で彼の表情を窺う。 「俺、施設入る時いろいろあってさ。今は普通に話せてるけど、2年ぐらい話せなくなってた時期あんの。今でもほんとは人と話すの苦手なのな。だから里沙以外でこんなに話やすい相手ってさ、智也が初めてなんだ」 祥悟の口調は全然深刻そうではない。まるで世間話をしているような軽さだった。 でも……話せなくなるっていうのはよっぽどのことだろう。 この子は、自分が考えているよりも、もっとずっと重いものを背負っているのかもしれない。 ……そんな気がした。 「そうか。それは光栄だね」 なるべく軽い感じで言葉を返すと、祥悟は立ち上がり、すたすたと歩み寄ってきて 「俺の兄さんになってくれるって、智也、言ったじゃん? 俺、すげえ嬉しかったんだよね」 言いながら、顔を覗き込んでくる。 その無邪気な笑顔にドキッとした。 「おまえがやじゃないならさ。俺、もっと智也といっぱい話したいんだ。俺の相談聞いてくれるだけじゃなくてさ。おまえの話も聞いてみたいの」 「祥……」 「そういうのって、うざい? やっぱ迷惑?」 「まさか。うざくないよ。嬉しいよ」 「そっか」 祥悟はほっとしたような顔をして、智也の腕をぐいっと掴んできた。 「じゃあさ。智也も俺に愚痴言えよな。なんでも聞いてやるからさ」 そう言ってドヤ顔をしてみせる祥悟を見ていたら、ちょっと泣きそうになった。
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