247人が本棚に入れています
本棚に追加
第5章.甘い試練
「もしもし? 祥?」
「うん。俺。智也さ、今どこ?」
祥悟のいつになく焦ったような声音に、智也は眉をひそめた。
「俺は今、自分の部屋だけど。祥、君、何処にいるの?」
「あのさ、ちょっと出てこれる? おまえ」
祥悟から電話がきて、唐突に呼び出されるのなんかよくあることだ。でも、今日は何だか様子がおかしい。いつもなら「今ここにいるから来れるなら来てよ」という感じで、こちらの都合など聞いてこないのに。それに祥悟の声が変だった。
「大丈夫。すぐに向かうよ。場所、教えて?」
智也が急いで答えると、祥悟はほっとしたようにため息をつき
「◯◯町3丁目のさ『ルグラン』ってホテル」
「『ルグラン』だね。待ってて。すぐ出るから」
「うん」
電話を切ろうとすると、誰かが喚いているような声が聞こえた。
「祥。他に誰かいるの?」
「んー……。テレビの音じゃねーの? それより智也。早く来てよ」
「わかった」
智也は今度こそ電話を切って、首を傾げた。『ルグラン』は前に一緒に行ったことのあるホテルだ。ここから急いで向かえば、車で20分程で着くだろう。
ただ、祥悟の声音と急かす言葉が、違和感だった。何か言いたそうで口に出せない。そんな印象だったのだ。
……とにかく急がないと。
智也はソファーから立ち上がると、上着を羽織ってポケットに携帯電話と財布を入れ、キーケースから車の鍵を取り出して玄関に向かった。
最初のコメントを投稿しよう!