第5章.甘い試練

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第5章.甘い試練

「もしもし? 祥?」 「うん。俺。智也さ、今どこ?」 祥悟のいつになく焦ったような声音に、智也は眉をひそめた。 「俺は今、自分の部屋だけど。祥、君、何処にいるの?」 「あのさ、ちょっと出てこれる? おまえ」 祥悟から電話がきて、唐突に呼び出されるのなんかよくあることだ。でも、今日は何だか様子がおかしい。いつもなら「今ここにいるから来れるなら来てよ」という感じで、こちらの都合など聞いてこないのに。それに祥悟の声が変だった。 「大丈夫。すぐに向かうよ。場所、教えて?」 智也が急いで答えると、祥悟はほっとしたようにため息をつき 「◯◯町3丁目のさ『ルグラン』ってホテル」 「『ルグラン』だね。待ってて。すぐ出るから」 「うん」 電話を切ろうとすると、誰かが喚いているような声が聞こえた。 「祥。他に誰かいるの?」 「んー……。テレビの音じゃねーの? それより智也。早く来てよ」 「わかった」 智也は今度こそ電話を切って、首を傾げた。『ルグラン』は前に一緒に行ったことのあるホテルだ。ここから急いで向かえば、車で20分程で着くだろう。 ただ、祥悟の声音と急かす言葉が、違和感だった。何か言いたそうで口に出せない。そんな印象だったのだ。 ……とにかく急がないと。 智也はソファーから立ち上がると、上着を羽織ってポケットに携帯電話と財布を入れ、キーケースから車の鍵を取り出して玄関に向かった。
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