第5章.甘い試練

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この今の状況に、いろいろ突っ込みたいことはあるが、まずはそこだ。 祥悟は明らかに酔っている。 うちの事務所は、飲酒は二十歳になるまでは厳禁だったはずだ。 「んー……飲んだ」 「飲んだ、じゃないよね? 君、相当酔ってるだろう。お酒はダメだって……」 「だって二十歳になったらOKじゃん」 「え……」 途端に祥悟は膨れっ面になり 「今日、俺の誕生日。二十歳になったし?」 ……え……。 「……誕生日?」 「おまえ、冷てえのな。忘れてたんだ?」 ……いや、だって……。 公式発表では祥悟の誕生日は夏だったはずだ。今はまだ1月で……。 「今日、なの? 君の誕生日」 「そ。それにさ。今この状況で突っ込むとこ、そこかよ? 智也」 祥悟の呆れ声に、智也はようやく、自分をすごい目で睨んでいる少女に目を向けた。 正直、1番突っ込みたかったのはこの子のことだが、心がそれを拒絶していたのだ。 「祥。この子は誰?」 「あんた誰って聞いてんの、こっちなんだけど」 少女は形のいい眉を吊り上げ、両手を組んで下から睨めつけてくる。その生意気そうな表情に見覚えがあった。 水無月アリサ。 うちの事務所の新人モデルだ。 たしかドイツと日本のハーフで、4ヶ月ほど前に社長がスカウトしてきて、かなり熱心に売り出しをかけている期待の新人だ。 1度挨拶されただけで一緒の仕事はなかったから、すぐには分からなかったが。 智也は眉を潜め、少女の言葉は無視して祥悟を睨みつけた。 「この子、どうしてここに? 君が連れてきたのか?」 祥悟はぷいっと目を逸らした。 「ちげーし。こいつが勝手についてきたんだよ」 「勝手に? そんなわけないよね。祥」 「ねえ。今度は誰が来たの?」 祥悟を問い詰めようとした智也の言葉を、遮るもうひとつの声。 奥の部屋からもう1人、ガウンを羽織っただけのしどけない格好の女の子が現れた。
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