第1章 舞い降りた君

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自由奔放でやりたい放題に見えるこの気まぐれ仔猫にも、傍からは分からない苦労や鬱屈があるのかもしれない。 ……それにしても、綺麗な子だな……。 祥悟の傍らに膝をつき、寝顔を見つめる智也の頬が思わずゆるむ。 思えば、この子との出逢いからして、衝撃的だった。 社長が新しく見つけ出してきた綺麗な双子。養子として引き取って、密かにデビュー前の特別レッスン中だと、社内では随分前から噂になっていた。 大手プロダクションに勤務していた頃から、新人発掘とそのマネジメントには定評のあった橘社長が、自社の看板になる人材を育成中だと聞いて、智也も心密かに会うのを楽しみにしていたのだ。 ……たしかに噂以上だったな。 あの日、智也は双子の片割れに恋をした。 姉ではなく弟の方に。 それまで自分は、そういう方面には、淡白なのだと思っていた。女の子に誘われて付き合ってみても、自分から積極的にはなれなくて、いつの間にか自然消滅してしまう。恋とか愛とかそういう感情に、自分は不向きなのだと思っていたのだ。 見た目はそっくりな双子の、姉ではなく弟に、自分でもびっくりするくらいときめいてしまった。 ああ……そうか。自分は淡白なんじゃなくて、今まで恋愛対象を間違えていただけなのか。 などと特にショックも受けずに冷静に受け止めた。普通はもう少し動揺するのかもしれないが、そのくらい、この子に惹かれてしまうことは、自分の中ですごく自然なことだったのだ。 もちろん、そんな感情は表には出さない。この子はあくまでも同じ事務所の可愛い後輩だ。ゲイかもしれないと自覚出来たからと言って、自分からぐいぐいいけるタイプじゃないし、そんな感情を向けられても祥悟だって迷惑だろう。心の中でそっと想うだけでいい。それ以上のことなんか別に望まない。 ……つもりなのだが……。 さっき、ムキになって大人のキスを仕掛けて、うっかり深く踏み込み過ぎた。 あの蕩けそうな感触が、今も生々しく残っている。 鼻から抜ける可愛らしい声。あまやかな吐息。震えながらきゅっと腕を掴み締めてきた細い指。触れた唇のしっとりとした柔らかさ。 ……っ。 思い出してうっとりしかけて、智也ははっと我に返った。
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