第5章.甘い試練

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智也は息を飲み、その子を見つめた。 そちらは、事務所は違うが超売れっ子モデルの新城華奈だった。 「あら……真名瀬くん? そっか。お目付け役が来ちゃったのね」 華奈は何度か一緒に仕事をしているし、たまに食事にも行く友人の1人だった。 アリサと違って余裕のある態度で、智也と祥悟を見比べ、悪戯そうな目をして笑っている。 アリサはきちんと服を着ているが、祥悟も華奈も素肌にガウンを羽織っただけ。明らかに……そういうことの後、という風情だった。 智也はますます眉の皺を深くして、再び祥悟を睨みつけた。 「祥。君は……いったい何をやってるの? こんなこと、社長に知れたら……」 思わず身を乗り出すと、祥悟は壁に寄りかかったまま大きなため息をついて 「スキャンダル、気にすんならさ、ドア閉めて中入れよな」 酷く億劫そうに言い放つ。 その態度に智也はカチンときたが、無言でドアを閉めて中に入った。目の前で仁王立ちのアリサの横をすり抜け、祥悟に歩み寄ると 「苦しい? とにかく中に行こう」 祥悟の腕をがっしりと掴むと、よろける身体を支えながら奥の部屋に向かった。 ツインベッドの乱れている方は見ないようにして、奥の未使用のベッドまで祥悟を連れていき、座らせる。 「華奈さん。悪いけど、水持ってきてもらえるかな?」 「いいわよ」 祥悟は一人で座ってられないのか、ずるずるとこちらに寄りかかってくる。支えながら智也も隣に腰をおろした。 いろいろ言ってやりたいことはあるが、祥悟の顔色が悪すぎる。さっき現れた時は真っ赤だった顔が、今は透き通るほど白くなっていた。 自分が知る限り、祥悟はこれまで飲酒はしていない。多分、二十歳の記念にと調子に乗って飲みすぎたのだ。 「はい。これ」 ミネラルウォーターを注いだグラスを、華奈が差し出してくる。ちらっと見るとバツの悪そうな顔をしていた。 「ごめんなさい。初めてだと思わなくて……。ちょっと飲ませすぎちゃったかも」 智也は無表情でグラスを受け取ると 「ここで飲んでたの?」 「ううん。店で食事して飲んでたの。祥悟くん、お酒は強いって言うから……」 「なに、飲んでた?」 「ビールと……ワインと、日本酒」 智也は小さくため息をつくと、気遣わしげな華奈に無理やり微笑んでみせた。 彼女が悪いわけじゃない。祥悟の自業自得だ。
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