第5章.甘い試練

5/20
前へ
/261ページ
次へ
智也はグラスを祥悟の口元に持っていくと 「祥。これ、飲んで?」 祥悟はのろのろと顔をあげ、首を振った。 「むり……」 グラスを持たせようとしても、手はだらんと下がったままだ。 智也はもう1度ため息をつくと、グラスの水を煽った。そのまま、祥悟の顎を掴んで上を向かせると、唇を合わせる。含んだ水を少しずつ、祥悟の口に流し込んでいった。 こく、こくっと祥悟が喉を鳴らす。 水がなくなると、再びグラスを煽って同じことを繰り返した。 女の子2人の強い視線を感じたが、あえて無視した。 泡立つ心を押し殺してはいるが、無性に腹が立っていた。 自分にこんな役割をさせる、祥悟に対しても。 祥悟とさっきまで絡み合っていたであろう、華奈に対しても。 お人好しにこんなことをしている、自分に対しても。 腹が立って、仕方がなかった。 グラスの中身が残り少なくなったところで、祥悟がぷはぁっと大きく息を吐き、智也から顔を背けた。 「も、いい……」 そのまま、もぞもぞと智也の胸に顔を埋めてくる。覗き込むと髪の毛の間から見える肌に、赤みがさしていた。 「ちょうだい、それ」 華奈が目の前に手を差し出してくる。顔をあげると、無表情で自分を見下ろす彼女と目が合った。 「ありがとう」 智也からグラスを受け取ると、華奈はくるりと背を向け、洗面所に向かう。 ふと思いついて部屋の入口に目を向けると、何とも微妙な表情をしているアリサと目が合った。もの言いたげな目をして、自分と祥悟を見比べている。 智也は内心、ため息をついた。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加