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智也はグラスを祥悟の口元に持っていくと
「祥。これ、飲んで?」
祥悟はのろのろと顔をあげ、首を振った。
「むり……」
グラスを持たせようとしても、手はだらんと下がったままだ。
智也はもう1度ため息をつくと、グラスの水を煽った。そのまま、祥悟の顎を掴んで上を向かせると、唇を合わせる。含んだ水を少しずつ、祥悟の口に流し込んでいった。
こく、こくっと祥悟が喉を鳴らす。
水がなくなると、再びグラスを煽って同じことを繰り返した。
女の子2人の強い視線を感じたが、あえて無視した。
泡立つ心を押し殺してはいるが、無性に腹が立っていた。
自分にこんな役割をさせる、祥悟に対しても。
祥悟とさっきまで絡み合っていたであろう、華奈に対しても。
お人好しにこんなことをしている、自分に対しても。
腹が立って、仕方がなかった。
グラスの中身が残り少なくなったところで、祥悟がぷはぁっと大きく息を吐き、智也から顔を背けた。
「も、いい……」
そのまま、もぞもぞと智也の胸に顔を埋めてくる。覗き込むと髪の毛の間から見える肌に、赤みがさしていた。
「ちょうだい、それ」
華奈が目の前に手を差し出してくる。顔をあげると、無表情で自分を見下ろす彼女と目が合った。
「ありがとう」
智也からグラスを受け取ると、華奈はくるりと背を向け、洗面所に向かう。
ふと思いついて部屋の入口に目を向けると、何とも微妙な表情をしているアリサと目が合った。もの言いたげな目をして、自分と祥悟を見比べている。
智也は内心、ため息をついた。
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