第5章.甘い試練

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穏やかに微笑んで、ゆっくり諭すように話しかけると、アリサはきゅっと眉を寄せて、再び祥悟を睨みつけた。 祥悟はもうこちらを見ようともせずに、華奈に手招きをしている。華奈は憮然とした表情でアリサを睨みつけてから、祥悟の手招きに応じてベッドに歩み寄ると、祥悟の隣に座った。まるでアリサに見せつけるように祥悟にしなだれかかる。祥悟は華奈の頬に手を当てると、これみよがしにキスを始めた。 智也は2人からふいっと目を逸らし、内心の動揺を押し殺してアリサに微笑みかけた。 見せつけられているのは、自分も同じだ。2人を見つめて顔を強ばらせているアリサと、自分は今、同じ顔をしているのかもしれない。 「行こう、水無月さん」 掠れた声が出た。早くこの子を連れ出して、この残酷な役回りから解放されたかった。 悔しそうに2人を見つめていたアリサが、ゆっくりとこちらを見た。まるで親の敵でも見るような目で、智也を睨めつけてくる。 ……そんな顔、されても、困るんだけどな……。 再び促そうと口を開きかけた智也に、アリサはつかつかと近づいてくると、両手で智也の腕をぐいっと掴んだ。不意をつかれて目を見張る智也に、アリサは泣きそうな顔をしながら 「じゃあ、私にキスして。大人のキス。そしたら一緒に帰るわ」 ……は? ……なに言ってるの?この子……。 智也は思わず惚けた顔で、アリサの顔をまじまじと見つめた。 ……いや、どうして俺に? あまりのことにぼんやりしてしまった智也の腕を、両手でがしっと捕まえて、アリサはベッドに向かう。 半ば引き摺られるようにして、祥悟たちの座っているベッドまで行くと、アリサは急に勢いよく抱きついてきた。 「うわ……」 智也は咄嗟に避けきれず、彼女の身体を受け止めたまま、後ろのベッドに尻もちをつく。 「あ、おい、ちょっと」 慌てて体勢を立て直そうとしたが、アリサは上からのしかかってくる。 「私、もう子どもじゃないわ。キスぐらい出来るんだから」
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