第5章.甘い試練

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ムキになって挑みかかってくるアリサは、どう考えても相手を間違えている。 でも意外に強い力で体重をかけてくる彼女に、智也はそのまま押し倒されてしまった。 上に跨ったアリサが、智也の顔の脇に両手をつき、顔を近づけてくる。 ……ちょ……っと、待って、 智也は近づくアリサから顔を背け、必死に両手をあげて、彼女の肩を押し戻そうとした。 女の子相手に乱暴なことはしたくないけれど、乱暴されかけているのは、自分の方だ。 「おまえ、何やってんのさ」 不意に祥悟のキツい声が、上から降ってきた。アリサと自分の顔の間に手が伸びてきて、口を手のひらで覆われる。 「っ?」 怖い顔をして、智也の口を手で庇っている祥悟と目が合った。祥悟はぷいっと目を逸らし、今度はアリサを睨みつけて 「なんで智也を襲ってんだよ? アリサ」 「だって……」 祥悟はぐいっと身を乗り出してきて、智也の胸上に乗り上がると、アリサの肩を掴んだ。 「だってじゃねえだろ」 低く唸るような声。 祥悟は何故か、酷く怒っているみたいだ。 そのまま、アリサを智也の向こう側に突き飛ばし、仰向けに転がった彼女の両手を、上からシーツに縫い付ける。 「相手、間違ってんじゃねーよ。アリサ」 言いながら、アリサに顔を近づけていき 「おまえが、好きなのは、俺なんだろ? ん? キスならあいつじゃなくて、俺にしろよ」 妙に艶めいて凄みのある男っぽい声で、アリサに囁きかける。アリサは黙りこみ、せつなげに瞳を揺らして祥悟を見上げた。 「目、閉じてな」 祥悟の低い囁きに、リサが慌てたようにきゅっと目を瞑る。祥悟は唇の端をあげて薄く笑うと、智也の方をちらっと見た。 自分の胸の上に乗りかかったまま、アリサに迫っている祥悟の、その一瞬の流し目にゾクッとした。 キスされようとしているのはアリサのはずなのに、まるで自分が彼に囁かれているような気がした。
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