第5章.甘い試練

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目の端に、アリサの唇を優しく啄む祥悟の横顔が映る。腕を伸ばして抱き締めたい温もりは自分の上にいるのに、自分とは違う相手と口付けを交わしているのだ。 ……これ……何の拷問だろうな……。 目の奥がつんとする。智也は慌ててぎゅっと目を瞑った。 視界を遮ってもすぐ側で、2人の甘やかな息遣いを感じる。濡れた唇と舌が絡み合う水音が、やけに大きく耳に届く。 智也は、彼らから顔を背けた。 今すぐ祥悟の身体を突き飛ばして起き上がり、この部屋から出ていきたい。もうこれ以上、見せつけられるのは……耐えられない。 目の奥が熱くなってくる。涙はダメだ。ここで泣くのは、あまりにも惨め過ぎる。 智也は滲んできそうになる雫を散らそうと、瞬きをした。その視界に、こちらをじっと見下ろしている華奈の顔が映った。 華奈は無表情で祥悟たちを見つめていたが、ふっとその視線をこちらに向けた。 ちょっと目を見張り、不思議そうに首を傾げる。やがて、何か言いたげに唇を動かしたが、すぐに閉じた。強ばっていた表情が柔らかくなり、華奈は悲しげに微笑むと、そっとこちらに手を伸ばしてきた。 ほっそりとした指先が、智也の頬をそっと撫でる。 自分は今、どんな顔をしているのだろう。 華奈の目には同情の色が滲んでいる気がする。それはすごく慈愛に満ちて優しかったが、今の自分には向けられたくない優しさだ。 智也は、すいっと華奈から目を逸らした。 華奈の指が離れていく。 「帰るわね、私」 華奈は誰にともなく小さく呟くと、こちらにくるりと背を向けて、バッグと自分の服を掴んで洗面所に行ってしまった。
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