第5章.甘い試練

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「満足したか?」 長いキスの後で、祥悟が唇を解きアリサに囁きかける。アリサはうっとりした顔で祥悟を見つめ、その先をねだるように手を伸ばして祥悟に抱きつこうとしている。 ……いや。これ以上は無理だから。 智也は祥悟の身体を抱きながら、がばっと身を起こした。 「うわっ」 「いい加減、重たいよ。続きは2人だけで楽しんでくれるかい?」 どさくさで、祥悟の華奢な身体をぎゅっと抱き締めてから、手を離した。 抱き着く寸前で祥悟を奪われたアリサが、憮然とした表情でこちらを睨む。その目は「邪魔しないでよね」と言っているようだが、巻き添えを食らって文句を言いたいのはこっちの方だ。 智也はアリサを無視して、祥悟の身体を押しのけると、ベッドから降りた。 「華奈さんは帰ったよ。俺もそろそろ帰るからね」 2人に背を向けたままそう言って、智也はドアに向かった。 「待てよ。帰るのはおまえじゃねーし」 祥悟の言葉に、智也は足を止めた。 でも、振り向きたくない。 正直、心が疲れ果てていて、2人の顔を見るのも億劫だった。 「帰るのは智也じゃなくて、おまえな、アリサ」 「え。嫌よ、祥悟。私、帰りたくない」 「ばーか。ガキが何言ってんのさ。このまま、おまえ泊らせたら、事務所、首になっちまうっつーの。ほら、降りろよ」 愚図るアリサを追い立てて、ベッドから降りると、腕を掴んで智也の横を通り抜ける。 嫌がるアリサを強引に引っ張ってドアを開けると、 「じゃあな。タクシー拾ってちゃんと帰れよ」 そのまま部屋から追い出そうとする。 智也は慌てて2人に駆け寄り、祥悟の腕を掴んだ。 「何やってるの、祥。彼女一人でこんなところから帰す訳にはいかないだろう?」 祥悟は掴まれた腕を振り解きながら 「なんでさ? 勝手についてきたの、こいつじゃん。自己責任だろ」 「そういう訳には行かないよ、祥。俺が送っていく」 「は? おまえは残れよ。こいつ一人で」 「祥っ。いい加減にしろ!」
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