第5章.甘い試練

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思わず、大きな声が出た。祥悟は目を見張り、ぴたっと動きを止める。 智也は苛立ちを抑えながら、少し声を落とし 「高校生の彼女をこんな所に連れ込んだだけでも問題なんだよ。分かるだろう? いいから、後は俺に任せて」 祥悟は反論しようと口を開きかけて、むっとしたように口を噤んだ。 怒っているのは、こちらの方だ。 無言で睨み合い、先に目を逸らしたのは祥悟の方だった。 「分かったよ。好きにすれば?」 首を竦めると、智也の手を振りほどき、踵を返して部屋に戻って行く。 その後ろ姿を智也は見送ると、アリサに目を向けた。 「帰ろう。水無月さん。車で送っていくから」 アリサは泣きそうな顔で部屋の奥を見つめていたが、やがて諦めたのか、智也の顔をじっと見上げて 「送ってくれなくていい。タクシー拾って自分で帰る」 言い捨てて、ドアの外に出て行った。 彼女をそのまま帰らせる訳にもいかず、智也はアリサを追いかけてホテルを出た。振り向きもせず、先をずんずん歩いていく彼女を大通りまで追って、流しのタクシーを拾う。 大人しく乗り込んだアリサに、お金を渡して行く先を尋ね、運転手に伝えた。 タクシーが彼女を乗せて走り去ると、酷い虚脱感に襲われて大きなため息が出た。 ホテルに戻って、駐車場に直行した。 祥悟の待つ部屋に戻る気はなかった。 車のドアを開けようとしたところで、携帯電話が着信を告げる。 ー祥悟からだ。 智也は、しばらく鳴り続ける携帯電話をじっと見つめていた。いったん止んだ電話がまた鳴り始める。 不意に、携帯電話が歪んでぼやけた。さっき必死に堪えていた涙腺が、今頃崩壊したらしい。 智也は電話をぎゅっと握り締めると、目頭を指で押さえた。
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