第1章 舞い降りた君

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……違う、違う。俺は怒ってるんだよ。 この綺麗なやんちゃ猫に、大人を揶揄うなとお説教してやらないと。 智也は自分を戒めつつ、そっと手を伸ばした。触れるか触れないかのぎりぎりで、祥悟の髪に手をかざす。安心しきってぐっすり眠っているのに可哀想だが、そろそろ起こしてスタジオに連れて行かないと。 「……ぅん……」 不意に祥悟が綺麗な眉をきゅっとしかめ、むにゃむにゃ言った。息を潜めて見守っていると、うっすらと開いた唇が微かに動いた。 「……りさ……」 聞き逃すくらい小さな呟きだった。 りさ……里沙か。この子の姉の名前だ。この気まぐれで奔放な仔猫が、唯一心を許して大切にしているらしい双子の片割れ。 ……叱られる夢でも見てるのかな。 姉の里沙はしっかり者だ。明るくてはきはきしていて気配り上手で、外観の華やかさに似ず、浮ついたところのない、愛されキャラだった。自由奔放に好き勝手なことをする弟を、いつもはらはら見守っていて、なにか問題があると、弟を叱り飛ばして周囲に謝って歩く。見た目はそっくりなのに、祥悟とは正反対な性格らしい。 ……今頃、マネージャー以上に気を揉んでいるだろうな。 姉に叱られて不貞腐れている祥悟を想像して、智也が思わず頬をゆるめた時、目の前の仔猫が唐突にぱちっと目を開けた。 「……うざい。智也の視線、さっきから突き刺さってるから」 目を覚ました途端に、憎まれ口を叩く。 ……ったく。可愛げのない。 うっかり見惚れていた智也は、内心ドギマギしながら、怖い顔をしてみせた。 「こら。誰がうざいんだよ」 祥悟はくあ~っと欠伸をしながら 「え~、智也。ずっと熱い眼差しで見とれてたでしょ。なに?もしかして俺に惚れてんの?」 あどけなかった寝顔の名残りはまったくない。デフォルトの少し小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、じーっと智也を見上げ 「あのさ、智也。あんたって、もしかして、ゲイ?」 「……っな」 祥悟は悪戯っこの顔つきで、伸び上がって智也を見つめて 「もしかしたら?って思ってたんだよね。あんた、モテそうなのに女っ気ないし、俺にあんなキスしちゃうし?……ふふ。図星でしょ」
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