第5章.甘い試練

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マンションに戻り、真っ直ぐに寝室に向かう。 何も考えずに、今は眠りたかった。 心は疲弊していたが、服のままベッドに寝転がり布団を被って目を瞑っても、なかなか安らかな眠りは訪れない。 苦しくて何度も寝返りを打った。 うつらうつらしては、目が覚めた。 祥悟の顔が、あの目が、柔らかそうな唇が、目蓋の裏をちらつく。 久しぶりに抱き締めた祥悟の身体は、相変わらず華奢で……愛おしかった。 彼を抱き締めたい。もっと強く。 もっと狂おしく、彼と抱き合いたい。 智也は眠るのを諦めて、目を開けた。 ベッドヘッドに置いた携帯電話に手を伸ばす。 電源を入れてみると、着信通知が数回。 全部、祥悟からだった。 時計を見ると、0:23。 事務所が公式発表している祥悟のプロフィールとは違う、彼の本当の誕生日は……もう過ぎてしまっていた。 愛しい想い人の記念すべき二十歳のBIRTHDAY。 それは偶然にも、智也の25歳の誕生日でもあった。 悶々としているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。 狂ったように鳴る玄関のチャイムの音で、智也はがばっと身を起こした。 直前に見ていた夢のせいで、心臓が嫌な感じにドキドキしている。 ピンポーンピンポンピンポンピンポーン また鳴り出した。慌ててシーツに転がっている携帯電話を拾い上げると、時刻は2:47。 ……誰だよ。こんな時間に。 智也は顔を顰め、渋々ベッドから降りた。 こんな真夜中にあんな鳴らされ方をしていたら、近所迷惑にも程がある。 玄関まで出て、ドアの覗き穴を見てみるが、誰も映っていない。 そのままドアを見つめて躊躇していると、今度はドアをだんだんと叩き出した。 ……ちょっと、なんだよ。 チェーンは掛けたままで、恐る恐る鍵を外し、ドアを薄く開けてみる。 「居留守使ってんなっつーの」 細く開いたドアから、低い声が飛び込んできてびくっとした。
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