第5章.甘い試練

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……たしかに……寝ないで待ってるって、電話で言っていた気がする……。 あの時は、もう心がいっぱいいっぱいで、祥悟の声を聴くのも苦しかった。 ……でも、だからって、どうしてここに……。 いつも気紛れな祥悟のことだ。 自分を呼び出したことも、そんな言葉も、すぐに忘れてしまうだろうと思っていた。 「え……っと。じゃあ、ホテルから、わざわざこっちに来てくれたの?」 「だからさ、誕生日じゃん」 「え……」 「もう日付変わっちゃったけどさ。誕生日だったし?」 「あ……ああ……そう、だよね」 すたすたとソファーに行き、ふんぞり返って座る祥悟を目で追いながら、智也はまだぼーっとする頭で考えた。 ……そうだ。昨日は祥の……。でも……それもショックだったんだ。 知り合ってから4年も経つのに、祥悟の本当の誕生日すら教えてもらえていなかったことに。 自分の存在は、彼にとって所詮はたいした意味はないのだと……思い知らされた気がして。 「祥。誕生日……おめでとう」 智也がぼんやりと呟くと、祥悟はちろっとこちらを見て 「それよりさ。どうして戻って来なかったわけ? おまえ、何怒ってんの? アリサにキスされそうになったからかよ」 祥悟の目は冷ややかだ。 「……いや、そうじゃ、ないけど」 祥悟ははぁ……っと大袈裟なため息をつくと 「おまえって時々、そうやって閉じちまうのな。何考えてんのか、全然わかんねーし」 ぶつくさと独り言を呟く、その祥悟の言葉の意味がわからない。何を考えているのか、わからないのは祥悟の方だ。 「水無月さんに華奈さんとの時間を邪魔されて、追い払いたくて俺を呼んだんだよね?」 智也の問いかけに、祥悟は無表情のまま何も答えない。 「俺は、彼女を送って行ったんだから、それでお役目御免だろう?」 愚痴っぽいことを言いたくはないのに、つい情けない言葉が零れ落ちた。 祥悟の眉間にシワが寄る。 「そんなこと、俺、おまえに頼んでねーし」 ……うん。頼まれたわけじゃないよね。でも……あの状況で俺を呼び出すって、そういうことだよね。
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