第5章.甘い試練

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「なあ、歯ブラシ、予備のやつある?」 「え……。あ、あるけど」 「じゃあ貸して? シャワーは浴びてきたからさ、歯だけ磨いて寝るし」 祥悟は独り決めすると、再びドアに向かった。 「え、あ、ちょっと待って、祥」 焦って追いすがる智也に、突然、祥悟が立ち止まり、くるっと振り返る。智也はぶつかりそうになって、足を踏ん張った。 「誕生日」 「え?」 「もう過ぎちまったけどさ。あれな」 そう言って、祥悟が顎をしゃくってみせる。 智也は振り返ってその方向に目を向けた。 ダイニングテーブルの脇に、祥悟の荷物がある。上着とバッグと……店のロゴが入った袋だ。 「昨日、誕生日だろ? おまえの」 「え?」 意味がわからずきょとんとする智也に、祥悟はすたすたとテーブルの方に戻っていって 「なんですっとぼけてんのさ。昨日、おまえの誕生日だったよな?」 言いながら、店のロゴ入りの袋を拾い上げる。 「え……。俺の……?」 祥悟は頷きかけて、急に眉を寄せた。 「は? もしかしてさ、おまえも公式と誕生日違うのかよ?」 智也はドキドキしながら、慌てて首を横に振った。 ……まさか……まさか……祥……それって。 「あ~。びっくりした。驚かすなよな。フライングしたかと思ったじゃん」 「祥……それ、君……」 ……駄目だ。違う意味で泣きそうだ。 祥悟はちょっと照れたように笑って 「あ。別に高いもんじゃねーし? おまえ、何欲しいかわかんないしさ」 言いながら、若干そっぽを向いて、手に持った袋を差し出してくる。 智也は、そろそろと手を伸ばし、その袋を両手で受け取った。 「祥……。君……これ、俺に?」 ……駄目だ。どうしよう。声が。 涙声になりそうだった。目の奥がつんとする。 「開けてみれば?」 祥悟はますますそっぽを向いて、こちらを見ようとしない。 でも、その方が助かる。目が赤くなっているのが、バレずに済むから。
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