247人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、歯ブラシ、予備のやつある?」
「え……。あ、あるけど」
「じゃあ貸して? シャワーは浴びてきたからさ、歯だけ磨いて寝るし」
祥悟は独り決めすると、再びドアに向かった。
「え、あ、ちょっと待って、祥」
焦って追いすがる智也に、突然、祥悟が立ち止まり、くるっと振り返る。智也はぶつかりそうになって、足を踏ん張った。
「誕生日」
「え?」
「もう過ぎちまったけどさ。あれな」
そう言って、祥悟が顎をしゃくってみせる。
智也は振り返ってその方向に目を向けた。
ダイニングテーブルの脇に、祥悟の荷物がある。上着とバッグと……店のロゴが入った袋だ。
「昨日、誕生日だろ? おまえの」
「え?」
意味がわからずきょとんとする智也に、祥悟はすたすたとテーブルの方に戻っていって
「なんですっとぼけてんのさ。昨日、おまえの誕生日だったよな?」
言いながら、店のロゴ入りの袋を拾い上げる。
「え……。俺の……?」
祥悟は頷きかけて、急に眉を寄せた。
「は? もしかしてさ、おまえも公式と誕生日違うのかよ?」
智也はドキドキしながら、慌てて首を横に振った。
……まさか……まさか……祥……それって。
「あ~。びっくりした。驚かすなよな。フライングしたかと思ったじゃん」
「祥……それ、君……」
……駄目だ。違う意味で泣きそうだ。
祥悟はちょっと照れたように笑って
「あ。別に高いもんじゃねーし? おまえ、何欲しいかわかんないしさ」
言いながら、若干そっぽを向いて、手に持った袋を差し出してくる。
智也は、そろそろと手を伸ばし、その袋を両手で受け取った。
「祥……。君……これ、俺に?」
……駄目だ。どうしよう。声が。
涙声になりそうだった。目の奥がつんとする。
「開けてみれば?」
祥悟はますますそっぽを向いて、こちらを見ようとしない。
でも、その方が助かる。目が赤くなっているのが、バレずに済むから。
最初のコメントを投稿しよう!