第5章.甘い試練

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智也は、うっかり滲みそうになった涙を必死に散らしながら、袋の口のリボンを解いて開けてみた。 綺麗に包装された包みを取り出し、破れないように丁寧にテープを外す。 ……っ。 出てきたのは、ブルーグレーが基調の柔らかい色合いのマフラーだった。 そんなに高くはないと祥悟は言ったが、このしっとりとした手触りはおそらく上質のカシミアだろう。 智也は、マフラーをぎゅっと握り締めた。 4年の付き合いになるが、今まで誕生日プレゼントを贈り合ったことはない。彼の誕生日と公表されていた8月に、さりげなくその話題を振ったことはあるが、祥悟はまったく反応しなかった。もちろん、智也の誕生日についても、彼が関心を示したことはなかったのだ。 ……俺の誕生日を……調べてくれて、わざわざこれを……買ってくれた? 祥が? なんだか頭がふわふわしてきた。 だとしたら、祥悟が自分を呼び出したのは、面倒事の後始末の為じゃなくて……これを、自分に渡してくれる為なのか……? ……そんなこと……まさか……。 智也はマフラーを握り締めたまま、そっと祥悟の横顔を窺った。 「……っ」 祥悟はこちらをじっと見ていた。目が合ってどきっとする。 「お、いいじゃん、それ。やっぱその色、智也に似合うよな」 満足そうに微笑む祥悟の目が、すごく柔らかい。智也は心臓をきゅっと鷲掴みされたような気がした。 「これ……君が、選んでくれたの? 俺の……誕生日プレゼントに?」 「んー。まあね。店でそれ見た瞬間さ、おまえの顔が浮かんだんだよね」 ……うわああ……どうしよう。
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