第5章.甘い試練

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「誕生日……調べて、くれたのかい?」 祥悟は首を傾げて 「事務所に初めて顔出した日にさ、おまえのプロフィールを見たんだ。俺と同じ誕生日かよって思ったから、印象に残ってたんだよね。それってすっげー偶然だろ?」 ……っ。そんな……前から? 祥悟は得意気な顔をしてから、智也の手からマフラーをひょいっと取り上げ 「ちょっと屈めよ」 ドギマギしながら身を屈めた智也の首の周りに、マフラーをふんわりと巻いてから、1歩後ろに下がった。 「んー。いい感じ。すげえ似合うじゃん。なぁ、おまえは気に入ったのかよ? それ」 満足そうに目を細める祥悟に、智也は慌てて頷いた。 「もっもちろんっ。嬉しいよ、祥。君がわざわざ俺に、こんな素敵なプレゼントを選んでくれるなんて……」 ……信じられないよ。夢みたいだ。 「そっか。でも本当はそれ、昨日のうちに渡したかったのにさ。おまえ戻って来ねえし?」 「……ごめん……」 「んじゃ、そろそろ寝ようぜ、智也」 祥悟はくあ~っと欠伸をすると、くるりと背を向け、再びドアの方へ向かう。その後ろ姿を、智也はまだ信じられない気持ちで見送った。 ……祥……。君って人は……。 さっきまでの、絶望的な気分はすっかり消えていた。我ながら現金過ぎるとは思うが、地獄の底から天国へと一気に引き上げられた気分だ。 智也は首に巻いたフラーに手を伸ばした。 目の奥がじわっと熱くなる。 マフラーの端を持ち上げ、そっと頬擦りしてみた。 それは、しっとりと柔らかくて、ふんわりと温かかった。 ※次章は「甘美な拷問」です
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