第6章.甘美な拷問

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第6章.甘美な拷問

「さんきゅ」 買い置きの歯ブラシを渡すと、祥悟はごく自然な感じで受け取り、歯を磨き始めた。 このマンションに、彼が訪れるのは初めてではないが、そう頻繁に来るわけでもない。でも勝手知ったる様子で、ナチュラルに馴染んでいる感じが、すごく彼らしいなと思う。 祥悟にはそういう不思議な特技がある。 初めて訪れる場所でもまったく物怖じせず、自分の居心地のよいスペースを瞬時に見つけて、まるで以前からそこに居たみたいに馴染んでしまうのだ。 智也にしてみたら、彼が自分のマンションを訪ねてくれて、一緒に寝る……なんてシチュエーションは、ものすごーく特別なことで、ずっとドキドキして落ち着かないでいるのに。 ……っていうか、一緒に……寝るって。 とりあえず、祥悟をベッドに寝かせて、自分はソファーで眠ろうと思っていたのに、彼はそれを当然のことのように却下した。同じベッドで寝ればいいと。 ……っ。いやいやいや。それは無理だから。 広めとは言っても、セミダブルなのだ。大の男2人が一緒に横になれば、触れ合うすれすれの距離で寝ることになる。 祥悟がすぐ隣で寝ているなんて……そんな拷問は、ありえない。 「おまえ、さっきからなに独りで百面相してるわけ?」 不意に、下から顔を覗き込まれて、智也ははっと息をのんだ。いつの間にか歯磨きを終え、洗顔も済ませて、頬の脇の癖っ毛に雫をつけた祥悟が、怪訝な表情でこちらを見つめている。 「あ。ああ。ええと……」 「寝室。先行ってるからな。おまえも歯磨いて早く来れば?」 祥悟は手に持ったタオルで顔をもうひと拭いすると、智也の手にそれを押し付けて、さっさと洗面所を出て行ってしまった。 「あ……」 声をかけそびれ、智也はため息をついて、鏡の中の自分を見つめた。 ……一緒に……寝る……? 祥と?
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