第6章.甘美な拷問

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さっき、華奈と口付けていた時の表情。 そして、薄く微笑んだ唇を見せつけるように、アリサの口をついばみ始めた祥悟の横顔。 その男の色気を滲ませた艶っぽい顔が、脳裏に鮮やかによみがえってくる。 悩ましい息遣い。 濡れた舌の絡み合う水音。 智也はぎゅっと目を瞑って、妖しい情景を頭から無理やり追い出した。 「どうって……?」 「最近さ、おまえとキス、してねーじゃん? 出逢った頃は、おまえにキスのやり方教わったりしてたのにさ」 そう。あの頃は、無邪気にせがむ祥悟に、女の扱いの手ほどきをしてやると、やましい下心を隠してキスを教えていた。 この優秀な生徒は、それを即、女の子に実践しては、無邪気に戦利報告をしてくれたのだ。 だがそれも最初のうちだけで、その後、祥悟は師匠の自分よりすっかり経験値をあげてしまった。ここ2年ほどは、一緒に出掛けたり食事をすることはあっても、祥悟の身体に触れることはなくなってしまっていたのだ。 「すごく……色っぽかったよ」 痰が絡んだような声が出て、智也はこほっと咳払いした。 「色っぽい?」 「うん……なんて言うか……ぞくっとした」 「ふーん……。俺さ、キス上手くなってる?」 祥悟は息がかかるくらい顔を近づけ、無邪気にぴたっと肩をくっつけてくる。避けるわけにもいかなくて、智也は身体を強ばらせた。 「う、上手く……なってるかは、わからないよね。俺が君とキスしたわけじゃ、ないし」 ……ばか。何言ってるんだよ。そんな余計なこと、言ったら。 薄い布越しに、祥悟の体温を感じる。ボディソープ混じりの彼の体臭が、甘く鼻を擽る。 案の定、祥悟は楽しげに目を煌めかせて 「そっか。してみないと、わかんない、か」 呟く祥悟の形のいい唇の端がきゅっとあがる。 智也はこくっと唾を飲み、その赤い誘惑から必死に目を逸らした。 「ねえ、祥、いつまでも、お喋りしてると」 「じゃ、キス、してみる?」 ……ああ、やっぱり。墓穴を掘ってしまったじゃないか。
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