第6章.甘美な拷問

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智也はドキドキしながら、横目で祥悟をそっと見た。 とろりと蜜が滴るような笑みを浮かべた彼が、すぐそこにいる。 ……ダメだ。こんなの……抗えるわけ、ないよ。 そもそも自分は、本気で抗うつもりでいるのか。焦って慌てた素振りで、自分の心はこんなにも、期待に胸ふくらませている。ようやく与えられる甘美な罠に、自ら嵌りにいっているのだから。 智也は吐息を漏らすと、祥悟の頬に手を伸ばした。 見つめる祥悟の目がきゅっと細くなる。 「してよ、智也。おまえのキス」 その呪文が引き金になって、智也はがばっと身を起こすと、祥悟の手首を掴んで、シーツに仰向けに転がし、上から覆いかぶさった。 「誘ったのは……君だよ?」 無駄な念押しは、自分に課した最後の砦だ。 見下ろす祥悟の顔は満足そうに微笑んでいて、智也はもう1度熱い息を吐き出すと、いよいよ観念して、その赤い唇にむしゃぶりついた。 「……ん……っ」 触れた瞬間、びりっと電流が走った気がした。 がっつくなよ、と自分に言い聞かせながら、でもその柔らかい感触に心が震える。 祥悟が鼻から息を漏らした。 その微かな声にすら、官能を掻き立てられて狂おしくなる。 重ね合う乾いた感触が、うっすらと開いて濡れる。祥悟の吐く息はどうしてこんなにも甘いのだろう。 智也は彼の両手首をシーツに縫い付けて、微かに許された彼の綻びに、舌を差し入れた。 ……ダメだ。こんな、キスは。 隠している気持ちが、伝わってしまう。秘めた想いが、柔らかい粘膜を通して、彼の中に流れ込んでしまう。 祥悟が自分にねだるのは、あの頃と同じ偽物のキス、大人の手管、上手な恋の遊び方。 しっとりと重ねた唇に、熱く深く絡めた舌に、彼を愛おしむ自分の想いは、望まれていない。
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