第6章.甘美な拷問

8/13
前へ
/261ページ
次へ
祥悟は、自分にキスの仕方を教わったのだと思っているらしい。でも、こんな欲情を煽るキスは、祥悟としたのが初めてだった。 自分に跨る祥悟の腰が、小さく前後に揺れ始めた。 この美しい天使は、どうしてこんなに残酷なのだろう。 既に痛いほど張り詰めた己の欲の証が、彼の下腹でじわじわと擦られていた。 キスだけでこんなにも堪らなくなっているのに、これ以上煽られるなんて拷問だ。 「祥。遊びはもうおしまいだよ。そろそろ寝ないと本当に……」 智也は、このまま一気に先に進んでしまいたい欲求を押し殺し、祥悟の身体からいやいや腕を解いた。もしキスを続けて、祥悟に下腹を擦られていたら、男として1番情けない醜態を晒してしまいそうだ。 祥悟はうっとりと目を開けると、欲情に潤んだ瞳でこちらを睨んだ。 「ふうん。遊びは終わり、かよ? じゃあさ、本気なら続けていいんだ?」 ……っ? 祥悟の意外な言葉に、智也は目を見張り、探るように彼の瞳を見つめた。 祥悟の言動は気紛れで、智也はいつも振り回されてばかりいるが、今夜の祥悟は……ちょっと変だ。何事にも深入りしそうになると、自ら投げ出してしまうのに、何故か自分から深入りしようとしているような……。 「祥。君……何か、あった?」 「何かって、何さ?」 ぷいっとそっぽを向き、突き放すような答え方をするくせに、腕を掴んだ両手を離そうとはしない。引き剥がそうとしている智也の気持ちを察したように、掴む指先に力を込めてくる。 「何かあったの?って、聞いてるのは俺の方だよ」 智也が少しだけ力を強めて念を押すと、祥悟はちら……っとこちらを見て、鼻を鳴らした。 「俺さ、あの家、出ることにした」 何でもないような調子で零れ落ちた言葉に、智也ははっとしたが、何も言わずにその先を待つ。祥悟はまるで独り言のように言葉を続けた。 「もう、いろいろ限界でさ。二十歳になったからもういいかな?って思ってんの」 ……いろいろ……? 社長とのことかな。相変わらず折り合い悪そうだしな。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加