第6章.甘美な拷問

9/13
前へ
/261ページ
次へ
「もともと、あの家に厄介になるの、里沙だけのはずだったんだよね。里沙がちゃんと生活出来るんなら、俺まで世話になる必要ないし?」 「そう。もう……住むところは見つけたの?」 ……もしまだなら……ここに一緒に住んでみないかい? 言葉には出さないが、心の中でそっと呟いてみる。 「ん~。一応な。敷金とか礼金とか保証人とか、超めんどくさいからさ、最初は智也んとこ転がりこもうかと思ったんだよね」 ……そっか。やっぱりもう見つけてるのか。 ……って……え……? 「えぇ?!」 思わず心の中の声が表に飛び出した。 急に大声を出した智也に、祥悟は目を丸くして 「おまえ、なに急に叫んでんのさ?」 「あ。ああ……いや、いいんだ。気にしないでくれ」 心臓がドキドキしている。 智也は慌てて首を振ると、動揺しかけた顔を必死に引き締めてポーカーフェイスを作った。 『智也んとこに転がりこもうかと思ったんだよね』 祥悟の言葉が繰り返し頭の中で鳴り響く。 祥悟の気紛れな言動を本気にしてはいけない。 分かっている。 でも……。 例え思いつきでも、ここに住んでみようかと一瞬でも思ってくれた。家を出ると決めて、その行く宛の選択肢に、一瞬でも自分のことを思い浮かべてくれた。 そのことが……ちょっと舞い上がりそうなほど嬉しい。 「も、もう、そこは契約しちゃったのかい?」 落ち着け、ムキになるな、どもったりするなよ。そう自分に言い聞かせながら、つい身を乗り出してしまう。 「んー。まあな。いろいろ探してる暇なかったからさ、超テキトーに選んだけどさ。どうせ寝に帰るだけだし?」 「そうか……。どの辺だい? スケジュールが合うなら、引越しの手伝いとか、しようか?」 祥悟は智也の顔をまじまじと見つめ、首を竦めた。 「や、別に手伝ってもらうほど、荷物なんかないし。あ、でも越してから必要なもん買い揃えるからさ、そん時は付き合ってよ」 「あ、ああ。もちろんだよ」 「それよりさ、智也。続き……もうしねえのかよ?」 「え」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加