第1章 舞い降りた君

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智也はドアを開け、腕の中の祥悟を見下ろすと 「大人を揶揄った罰だよ、眠り姫」 そう言って、ちょっと意地悪な顔でにっこりと微笑んだ。 スタジオの隅でヘアメイクを直されながら、祥悟はマネージャーの飯倉に、ねちねちとお説教を食らっていた。 何か言われる度に「はーい」「気をつけまーす」などと適当に返事をしつつ、目はずっと入り口の智也を睨みつけている。 智也はドアの脇の壁に腕を組んで寄り掛かり、祥悟の視線を素知らぬ顔で受け流していた。 さっき、お姫さま抱っこのまま、スタジオに連れて来られた祥悟は、ざわめくスタッフたちの注目を一身に浴びて、露骨に嫌そうに顔を歪めた。 智也が屈んで降ろそうとするより先に、もがいて自分からぴょんと飛び降りた。更に振り向きざま、智也の脛に1発蹴りを入れ、物凄い形相で睨み上げてきた。 女の子扱いされたことに、どうやら相当おかんむりらしい。珍しく顔を赤らめて、ぷりぷりしている祥悟に、智也は無言で首を竦めた。 「おまえ、サイテー。覚えてろよ」 祥悟は押し殺したような低い声で捨て台詞を吐くと、里沙の元へと走っていった。 ……ちょっとやり過ぎたかな。 恥をかかされたとムキになって本気で怒る祥悟の反応が、智也にはかなり意外で新鮮だった。 ただでさえ、双子の姉とセットにされて、少女めいた格好ばかりさせられているのだ。人を食ったような皮肉っぽい態度はしていても、やはり祥悟も思春期の少年なのだろう。 どんな格好をさせられても、平気だったわけじゃなくて、本当はああいうのが嫌で、抜け出したり反抗したりしているのかもしれない。 ……可哀想なこと、しちゃったな。 智也は撮影の様子を眺めながら、里沙と祥悟に関する噂話を思い出していた。 2人は孤児で、施設にいたのを、橘社長が目をつけて引き取ったらしい。たしか、姉の里沙の方は橘社長の養女になったが、弟の祥悟は養子縁組はしていない。もともと、社長は姉の里沙だけ引き取るつもりだったのだが、その里沙に泣きつかれて、弟も一緒に連れてきたらしい。 双子の片方だけ養子にした橘と、彼らの関係が上手くいっているのかは分からない。だが、望まれていなかった弟の方は、引き取られたことに負い目を感じている可能性はある。 だとしたら……例えどんなに不本意な仕事でも、祥悟に拒否権はないのかもしれない。
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