第7章.揺らぐ水面に映る影

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「ダメです!社長っ」 智也の大声に、橘社長ははっと我に返ったように、再び振り上げかけた手をおろした。 「社長っ」 「橘社長っ」 騒ぎを聞きつけた社員たちが、事務所から飛び出してくる。智也はもがく祥悟の身体を両腕ですっぽり抱き締めて、橘社長を睨んだ。 「どうしてこんなっ。何があったんですか? 社長っ」 「ばっか、おまえは入ってくんなっての。離せよっ」 腕の中で尚も暴れる祥悟を、力づくで押さえ込み、智也は言葉を続けた。 「いったいどうしたんですか?」 社長はバツの悪そうな顔になりながらも、じろっと祥悟を睨みつけて 「それはその愚か者に聞け。まったく……とんだスキャンダルだ。祥悟、マスコミが嗅ぎつける前に、おまえは身を隠せ。何を聞かれてもひと言も喋るなよ! ……渡会っ」 「はいっ」 名指しされた祥悟のマネージャーが、焦ったように橘社長に駆け寄る。 「おまえの責任でもあるのだぞ。 あの馬鹿者を連れて身を隠せ」 「社長。俺が連れていきます」 割り込んだ智也を、橘はぎろりと睨むと 「おまえのマンションではダメだ。すぐにマスコミが嗅ぎつける」 「では、どこかホテルにでも。とにかく、俺が彼を連れて行きます」 智也の必死な剣幕に、社長は険しい表情のまま、智也と祥悟を見比べていたが 「では好きにしなさい」 吐き捨てるようにそう言って、踵を返し社長室に戻って行った。 「待てよ! 人殴っといて……」 「祥!」 もがきながら社長に追いすがろうとする祥悟を、智也はするどい声で制して、身体をすっぽり覆うように抱き締めながら、エレベーターの方へ無理やり引きずって行った。 「離せよ!智也っ。離せって!」 「いいからここはいったん引こう。祥、乗って」 ボタンを押し、開いたドアに祥悟を押し込みながら自分も箱に乗る。 どんな事情なのか分からないが、今はここから祥悟を連れ出すのが先だ。 ドアが閉まり、箱が動き出すと、祥悟は智也の手を力いっぱい振り払い、弾みでよろけながら壁にもたれかかってガツンっと拳で叩いた。
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