247人が本棚に入れています
本棚に追加
「ダメです!社長っ」
智也の大声に、橘社長ははっと我に返ったように、再び振り上げかけた手をおろした。
「社長っ」
「橘社長っ」
騒ぎを聞きつけた社員たちが、事務所から飛び出してくる。智也はもがく祥悟の身体を両腕ですっぽり抱き締めて、橘社長を睨んだ。
「どうしてこんなっ。何があったんですか? 社長っ」
「ばっか、おまえは入ってくんなっての。離せよっ」
腕の中で尚も暴れる祥悟を、力づくで押さえ込み、智也は言葉を続けた。
「いったいどうしたんですか?」
社長はバツの悪そうな顔になりながらも、じろっと祥悟を睨みつけて
「それはその愚か者に聞け。まったく……とんだスキャンダルだ。祥悟、マスコミが嗅ぎつける前に、おまえは身を隠せ。何を聞かれてもひと言も喋るなよ! ……渡会っ」
「はいっ」
名指しされた祥悟のマネージャーが、焦ったように橘社長に駆け寄る。
「おまえの責任でもあるのだぞ。 あの馬鹿者を連れて身を隠せ」
「社長。俺が連れていきます」
割り込んだ智也を、橘はぎろりと睨むと
「おまえのマンションではダメだ。すぐにマスコミが嗅ぎつける」
「では、どこかホテルにでも。とにかく、俺が彼を連れて行きます」
智也の必死な剣幕に、社長は険しい表情のまま、智也と祥悟を見比べていたが
「では好きにしなさい」
吐き捨てるようにそう言って、踵を返し社長室に戻って行った。
「待てよ! 人殴っといて……」
「祥!」
もがきながら社長に追いすがろうとする祥悟を、智也はするどい声で制して、身体をすっぽり覆うように抱き締めながら、エレベーターの方へ無理やり引きずって行った。
「離せよ!智也っ。離せって!」
「いいからここはいったん引こう。祥、乗って」
ボタンを押し、開いたドアに祥悟を押し込みながら自分も箱に乗る。
どんな事情なのか分からないが、今はここから祥悟を連れ出すのが先だ。
ドアが閉まり、箱が動き出すと、祥悟は智也の手を力いっぱい振り払い、弾みでよろけながら壁にもたれかかってガツンっと拳で叩いた。
最初のコメントを投稿しよう!