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「祥っ、どこに行くのっ」
事務所のビルの裏口から出ると、祥悟の身体を庇うようにして駐車場に向かう智也の手を、祥悟は振りほどいた。そのまま、駐車場とは別の方へ歩きだそうとする祥悟に、智也は慌てて追いすがる。
「おまえとは行かねーし」
「ダメだよ、祥。君、自分がどんな顔してるか、分かってる?」
エレベーターで俯く祥悟の横顔が見えたのだ。社長の拳をまともにくらって、頬には痣、口の端が切れて血が流れていた。ハンカチで顔を拭おうとしても、祥悟は嫌がって顔を背けた。
「はっ。放っとけっての。おまえに関係ねえじゃん」
苛立つ祥悟の荒い口調を無視して、智也は祥悟の腕を引き寄せると
「ここで騒いでたら目立つだろう。傷の手当てもしなきゃいけないからね。祥。言いたいことは後で聞くから、とにかく一緒に車に乗って? 頼むよ」
智也が努めて穏やかにそう言うと、祥悟はまだ興奮にギラつく目で智也を睨みつけ、何か反論しかけて唇を震わせ、結局何も言わずに口を閉じた。
おそらく口の中も切ったのだろう。祥悟は痛そうに顔を歪め、口中に流れ出た血をべっと道端に吐き出した。智也はすかさずハンカチを差し出す。それを受け取って口を覆う祥悟の腕を掴み直して歩き出した。
祥悟は少しだけ足を踏ん張って無駄な抵抗をしてみせたが、すぐに諦めたように大人しく歩き出した。
「ここ……どこさ? おまえん家?」
車の助手席ではそっぽを向いてひと言も口をきかなかった祥悟は、大きな屋敷の門がするすると開いて、そこに智也が車を滑り込ませると、目を丸くして窓の外をきょろきょろ見回した。
「いや、祖父の家。子どもの頃は住んでいたけどね」
ハンカチで口を覆ったまま、祥悟は唖然としたようにこちらを見ている。
「じいちゃん家? ここが? おまえ、いったいどこのお坊ちゃまだよ?」
「だだっ広いだけで相当おんぼろだよ。古い家だからね。さ、着いたよ。ガレージに停めるからここで降りて待ってて」
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