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「あのおっさんが何怒ってんのか、俺が知るかよ。人の話、まともに聞こうともしないんだぜ」
「うん。じゃあ、社長が君に何を言ったのか、教えてくれるかい?」
拗ねた態度の祥悟に、智也は辛抱強く問い掛けた。祥悟はしばらくの間、頑なに黙ってそっぽを向いていたが、やがてはぁ……っと大きなため息をつくと
「アリサがさ、こないだ大手の化粧品メーカーのイメージキャラクターに抜擢されたじゃん?」
「ああ。そうだったね」
「あいつ、社長に呼ばれてさ、他の連中もいる前で、とんでもねぇこと言い出したらしい」
アリサ……水無月アリサだ。
うちの期待の新人モデルで、先日、祥悟にストーカーちっくに迫っていた娘。
やはり女関係だったのか……と、智也は内心ため息をついた。
「とんでもないことって? 君との交際宣言とか?」
祥悟はゆっくりとこちらを向いた。その目が叱られた子どもみたいで、智也はひやりとした。
「その程度ならさ、社長も鼻で笑って相手にしねえし?」
……その程度じゃない? ならいったいどんな……
「結婚するって言い出したんだってさ、あいつ」
「……っ。結婚?」
「相手は俺な。しかもさ、妊娠してるとか言いやがってさ」
「……え」
「お腹に祥悟くんの子どもがいるから、責任取って結婚してもらいます。ってさ」
「……」
智也は絶句して、バツの悪そうな祥悟の顔を呆然と見つめた。
……結婚……。妊娠……。
予想外の言葉が頭の中にうわんうわんと鳴り響く。
……祥が……結婚? あの娘が……妊娠? 祥の……祥の子どもを……?
「……妊娠……してるの……?」
無意識に言葉が零れ落ちていた。
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