第7章.揺らぐ水面に映る影

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智也はくるっと背を向けて、祥悟から1番遠い椅子に腰をおろした。足が震えて、ちょっと立っていられそうにない。 ……マネージャーはいったい何をやっていたんだ? 祥の方だけじゃない、あの娘の方もだ。まだどちらも未成年だったのに。 いや……違う、そんなことどうでもいい。今更言っても仕方ないんだから。 ああ。ダメだ。どうしたらいいんだろう。 頭がぼーっとして……上手く考えられない。 祥悟が……結婚する。もしかしたら父親になる?そんな……そんなことって。 身体じゅうの力が一気に抜けて、鉛のように重たく感じた。椅子に座っているはずなのに、床にのめり込んでしまいそうだ。 「あいつさ、俺が裸であいつのベッドで寝てるとこ、写真撮ってやがった。信じらんねぇし」 「ええっ?」 祥悟の愚痴めいた呟きに、智也は思わず叫んで振り向いた。祥悟はびくっとして目を見張り 「ばっか。びっくりさせんなっつーの」 「写真っ? 君、それ見たの?!」 言いながらがばっと立ち上がった智也の剣幕に、祥悟はたじたじになり 「社長がさ、鬼の首取ったみたいな顔して、俺に叩きつけてきたし?」 「君が、寝てるところ? それともあの娘を抱いてる写真?」 「は? いや、俺が寝てるとこに決まってんじゃん。あいつ抱いてるとこなんか、誰が撮るんだよ?」 智也ははぁ~っと息を吐き出すと、再び力なく椅子にへたりこんだ。 証拠の写真まで撮られたと聞いて、美人局といった別の可能性が頭をよぎったのだ。 でも……きっとそうじゃない。 アリサは祥悟を本気で手に入れようとしているのだ。女の子の最大の武器を使って。 祥悟は……事態の深刻さが分かっているのだろうか。 というか、自分は今、どんな顔をしているんだろう。冷静に何かを考えているようで、実は頭の中は真っ白なのだ。 胸の奥がズキズキ痛む。 胃がムカムカして……吐きそうだ。 勝ち誇ったようなアリサの笑顔が浮かんできて、ムカつく。 そして、あまりにも無防備過ぎる祥悟の迂闊さに……ムカつく。 泣きたいのか怒りたいのか、もう何が何だかよく分からない。
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