第7章.揺らぐ水面に映る影

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バカバカしいことを考えている、という自覚はあった。そんなこと、実際には出来るはずもない。 ただ、せめて……自分の想いを彼に打ち明けたいと思った。 今回の件が、例えば事実ではなくて、祥悟が責任を取るような事態を回避出来たとしても、またこんなことは何度でも起きる可能性があるのだ。 祥悟は自分とは違って、ストレートなのだから。誰かに恋をして、その女性と結婚したいと思う日もくるかもしれない。 兄貴代わりだなどといい顔をして、自分の本心を隠したまま、自分ではない誰かと祥悟が結ばれる未来に怯え続けている自分。 情けないにも程がある。 「祥……」 声が掠れて上手く出ない。 心臓が早鐘のように鳴っている。 後ろからそっと抱き締めて、囁きたい。 「君が、好きだよ」と。 今、このタイミングで、じゃない気がした。 でももう、そんなことどうでもいい。 余計なことを考えてしまえば、また自分は金縛りになる。 「祥……君が」 ふいに、祥悟がくるっと振り返った。 智也はどきっとして、手を伸ばしかけたまま固まった。 「あいつがさ、どうしても俺と結婚したいって言うんならさ。俺、別にしてやってもいいんだよね」 「……え」 祥悟はぽりぽりと頭をかいて 「まあ、まだちょっと早いだろ~って気はするけどさ。俺、二十歳になったばっかだし、あいつも16だしさ」 祥悟は頬にあてていたタオルを外して、差し出したまま固まっている智也の手にひょいっと渡すと 「多分、あいつ、恋に恋するお年頃だしさ。俺のこと、よく知りもしねえで憧れてるだけだろ? 結婚したってすぐ幻滅するよね。俺はいい旦那になるタイプじゃねーもん」 「祥……君」 「だからすぐ離婚とか、なっちゃうんじゃねーの? それでいいなら別に結婚してもいいし」 あっけらかんとそう言って、けろっとした顔で笑う祥悟に、智也は顔を歪めた。 ……どうして、君は、そうやって……
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