247人が本棚に入れています
本棚に追加
バカバカしいことを考えている、という自覚はあった。そんなこと、実際には出来るはずもない。
ただ、せめて……自分の想いを彼に打ち明けたいと思った。
今回の件が、例えば事実ではなくて、祥悟が責任を取るような事態を回避出来たとしても、またこんなことは何度でも起きる可能性があるのだ。
祥悟は自分とは違って、ストレートなのだから。誰かに恋をして、その女性と結婚したいと思う日もくるかもしれない。
兄貴代わりだなどといい顔をして、自分の本心を隠したまま、自分ではない誰かと祥悟が結ばれる未来に怯え続けている自分。
情けないにも程がある。
「祥……」
声が掠れて上手く出ない。
心臓が早鐘のように鳴っている。
後ろからそっと抱き締めて、囁きたい。
「君が、好きだよ」と。
今、このタイミングで、じゃない気がした。
でももう、そんなことどうでもいい。
余計なことを考えてしまえば、また自分は金縛りになる。
「祥……君が」
ふいに、祥悟がくるっと振り返った。
智也はどきっとして、手を伸ばしかけたまま固まった。
「あいつがさ、どうしても俺と結婚したいって言うんならさ。俺、別にしてやってもいいんだよね」
「……え」
祥悟はぽりぽりと頭をかいて
「まあ、まだちょっと早いだろ~って気はするけどさ。俺、二十歳になったばっかだし、あいつも16だしさ」
祥悟は頬にあてていたタオルを外して、差し出したまま固まっている智也の手にひょいっと渡すと
「多分、あいつ、恋に恋するお年頃だしさ。俺のこと、よく知りもしねえで憧れてるだけだろ? 結婚したってすぐ幻滅するよね。俺はいい旦那になるタイプじゃねーもん」
「祥……君」
「だからすぐ離婚とか、なっちゃうんじゃねーの? それでいいなら別に結婚してもいいし」
あっけらかんとそう言って、けろっとした顔で笑う祥悟に、智也は顔を歪めた。
……どうして、君は、そうやって……
最初のコメントを投稿しよう!