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祥悟は勝手に出て行ったりはせず、あの家で大人しくしてくれているらしい。
智也は気もそぞろに仕事を終えると、事務所に寄って社長の指示をあおいだ。社長は終始、苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、祥悟の怪我の具合いをかなり気にしていた。病院に連れて行くと話すと渋い顔になり、往診をしてくれる知り合いの医師に、連絡をとってくれた。
事務所を出て、車で祖父の家へ向かう。
会いたいけれど、会いたくない。
心の整理は、まだついていなかった。
重たい気持ちを抱えて、祖父の家に辿り着くと、玄関の呼び鈴は鳴らさずに鍵で開けて入った。廊下を歩いていくと、居間の方から声が聞こえる。
……祥の声だ。
智也はどきっとして足を止め、深呼吸した。
表情を引き締め、そっと扉を開ける。
「へえ。じゃあ結構わんぱくだったんだ?」
「ええ。それはもう。やんちゃな盛りでございましたからねぇ」
楽しげな声は、祥悟と峰さんだった。
覗き込むと、祥悟はこちらに背を向けて椅子に座り、台所にいる峰さんと話をしているらしい。
「ふーん。意外かも。あいつ、すっげー落ち着いてるからさ、そういうの全っ然、想像つかねーし」
祥悟の笑い混じりの声に、つられたような峰さんの笑い声が重なる。
「もう大きくおなりですからね。すっかりご立派になられて」
祥悟は峰さんと打ち解けて、リラックスした様子だった。その弾むような明るい声に、智也は内心ほっとした。
自分がいっぱいいっぱいだったせいで、不慣れな家に彼一人を置き去りにしてしまった負い目を感じていた。それに、こんな鬱屈した気分で祥悟の相手をしたら、ポーカーフェイスを保てる自信がなかったのだ。
「ただいま。遅くなって、ごめん」
智也が声をかけると、祥悟がくるっとこちらを振り返る。腫れはだいぶひいていたが、赤黒い痣がまだ痛々しい。でも、祥悟の機嫌は悪くないようで、こちらの顔を見るなりにやっとして
「ほんと、おっせーよ、智也。今さ、峰さんとおまえの悪口言ってたとこだし」
弾むような声で、いつもと変わらないちょっと皮肉っぽい笑顔を見せてくれた。
……よかった……。祥は……怒ってない。
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