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智也はつられて笑顔になると
「聞こえていたよ。悪口じゃないよね。峰さんは俺のことを悪く言ったりはしないよ」
祥悟はひょいっと首を竦めた。
「ちぇ。聞いてたのかよ。峰さんがさ、超美味そうな夕飯作ってくれてんの。おまえも一緒に食うだろ?」
「ああ。ご馳走になるよ。峰さん、遅くまですみません」
峰さんは布巾で手を拭きながら顔を出し、にこやかに微笑んで
「いいんですよ。このところ、暇を持て余していたんだから。こんなハンサムくん2人のお世話が出来るなんて、両手に花だわ」
おっとりと穏やかな峰さんの優しい声に、心が和む。
智也は上着を脱いで椅子の背にかけると、祥悟の斜め向かいの椅子に腰をおろした。
入れ違いに、祥悟は身軽に立ち上がり、食器を運ぶ手伝いを始めた。一緒に手伝おうと立ち上がりかけた智也を手で制してきて
「おまえはいいから座ってろって。撮影、長引いたんだろ? すっげー疲れた顔してるし」
「あ……ああ、いや。君こそ怪我が……」
「怪我っていってもさ、顔だけだし。もう痛みはかなりひいてんの。ま、この顔じゃ、当分、仕事は無理だけどな」
「うん……そうだね」
智也は顔を曇らせた。
社長から、祥悟の今後についても話を聞いていた。当面の問題はアリサの件だが、びっしりと詰まった祥悟のスケジュールについても、既にいろいろとややこしい問題が生じている。キャンセルや延期などの調整に追われて、社長だけでなく事務所全体が殺気立った雰囲気だった。
そして、祥悟の双子の姉の里沙からきた電話のこと。
食事を終えたら、祥悟とじっくり話をしなければいけない。
遠慮してもう帰るという峰さんを引き止めて、心づくしの夕飯を3人で和やかに食べた。
仕事柄、どうしても外食が多くなる祥悟は、峰さんの家庭料理がすっかり気に入った様子で、食卓を囲んでいる間中、幸せそうな穏やかな表情をしていた。
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