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「ひょっとしてさ。おまえ、俺のこと、軽蔑してんの?」
窓の外を見たまま、祥悟がぽつん……と呟いた。
「え……」
「アリサのこととかさ……俺のやってること、呆れてんだよな?」
智也は祥悟の横顔を食い入るように見つめた。でも彼の表情は感情をうかがわせない。
「祥。俺は別に」
「ま。当然だよな。おまえ、そういうとこ、真面目そうだし? 女に不誠実なことやってる噂なんてさ、聞いたことねーもん、智也の」
「それは……」
……それはそうだろう。俺に女性関係の噂なんか、あるはずがない。だって俺は。
「おまえ、俺のこと、嫌いかよ?」
淡々と呟く祥悟の言葉に、ドキドキする。
……嫌いなはず、ないじゃないか。俺は、君のことを。
祥悟がくるっとこちらを向いた。その瞳が真っ直ぐにこちらの心を射抜く。
「付き合いきれねえって思ってんなら、もう関わんなくていいし? 俺、おまえにいやいや世話焼いてもらう気ないからさ」
祥悟は相変わらずの無表情で、その声音も淡々としている。何を考えているのか、こちらにわからせようとしない。
「祥。待って。俺はそんなこと、1度も言ってないよね」
「おまえ……顔に出さねえし。何考えてんのか、たまに全然わかんなくなるよね」
……それは、君の方こそ。
危うくそう言いかけて、ぐっと口を結んだ。
こんな売り言葉に買い言葉で、言い争いなんかしたくない。
「祥。どうしてそんなこと言い出すの? 俺はいやいや君の世話なんか焼いてないよ。君のことが心配だから、余計な世話だって分かってるけど、こうして」
ふいに祥悟の目が、一瞬歪んだ。
瞬きするぐらいの間だったが、とても哀しそうで苦しそうで、智也はハッとした。
「おまえに嫌われるのは、俺、嫌なんだ。軽蔑も同情もされたくねえの、おまえにだけは」
その声音もひどく寂しそうで、智也は泣きたくなった。
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