第1章 舞い降りた君

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「いいよ。奢ってあげる。でもメイク落としてからじゃなくていいのかい?」 撮影用のメイクはかなり濃い目だ。一般客も利用する下の喫茶室では、相当目立ってしまうだろう。 祥悟は首を傾げて、ちょっと考えてから 「別に俺は気になんねえし?」 「そっか。だったら行こう」 無頓着な祥悟に、智也は苦笑して、連れ立ってスタジオを後にした。 「今日はこの後、フリーなのかい?」 案の定、喫茶室では悪目立ちして、まばらにいる客の視線を独り占めしている祥悟は、そんなことにはまったく頓着せず、メニューに集中している。 「ん~。珍しく空いてるよ。予定してた雑誌の撮影、なんか向こうがトラブって日程ズレた。あ、これ、美味そうっ」 祥悟の目がお目当てのパフェのページに釘付けになった。生意気な物言いでも、こういう所はやっぱりお子さまなのだ。 店に入るなり一番奥の席に行き、向かいに座ろうとした智也を手招きして、何故か4人掛けのテーブルに2人並んで座った。これでは余計に目立つだろうと言うと、祥悟は口を尖らせて 「智也ってさ、周りの目、気にしすぎ。いいじゃん、別に。向かい合って座るとか、遠いからやだし」 こういう祥悟の気紛れな言動に、内心どきどきしている自分に苦笑して、智也はメニューを覗き込んだ。 「えっそれかい?ちょっとボリュームあり過ぎだろ」 目を輝かせながら、祥悟が指さしているのは、カップル専用のスペシャルパフェだ。 「は?これぐらい食えるでしょ。智也ってさ、甘いもん苦手なわけ?」 いつの間にかすっかり呼び捨てになっている祥悟に、智也は首を傾げて 「もしかしてそれ、俺も一緒に食べるのかい?」 「当然。ここのパフェさ、小さいやつだとプリン入ってないじゃん」 ……いや、それ、どんな理由だよ。 智也は内心突っ込みつつ、首を竦めた。 「俺、甘いものは無理だな。1人で食べられるの、選んでよ」 祥悟は信じられないものを見たというように、目を丸くして智也を見つめて 「パフェ食えないのかよ?うわぁ。甘いもの食えないとかさ、それ、人生の半分損してるじゃん」 また分からない理屈をこねて、むーっと顔をしかめると、祥悟はメニューをもう1度吟味し始めた。 智也はなんだか頬がむずむずしてきた。なんだろう、この可愛い生き物は。
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