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「……わかったっつーの。はいはい。じゃあな。……は? もう切るよ……いや、だからさ、泣くなってば。大丈夫だって。……へ?いや、おまえはこっち来んなよ。隠れてる意味ねーし。怪我って言ってもさ、顔ちょっと腫れただけだし。……そ。智也がいろいろやってくれてるから問題ねえの。……んー。わかったっつーの。俺はガキかよ? はいはい、わかりましたー。んじゃ、切るよ?」
智也が頃合いを見計らって、紅茶を持ってリビングに行くと、ようやく電話を終えた祥悟がクッションを抱き締めていた。
……うわ。相当……凹んでるな……。
大きなクッションを抱えて、祥悟はぐったりとソファーと一体化している。その拗ねた子どものような姿に、智也は思わずふきだした。
「は? なに笑ってんのさ」
聞き咎めた祥悟が、ガバッと身を起こす。不機嫌を絵に描いたような顔で睨まれて、智也は慌てて笑いを引っ込め首を竦めた。
「笑ってなんか、いないよ」
「や。今笑ってたし。……超ムカつく……」
持っているクッションを投げようと構える祥悟に、智也は慌てて手を振った。
「こらこら。そんなもの投げないで。紅茶が零れるから」
祥悟は振り上げたクッションを再び抱き締めた。
……そのクッションになりたいな。
などと、ふとしょうもないことが頭をよぎったが、もちろん口には出さない。
「彼女、なんて言ってたの?」
「別に? あ~もう、うるせえよな、女ってさ。ぐちぐち怒るし、ぐすぐす泣くし」
「こら。そんなこと言うものじゃないよ。里沙は誰よりも君のことを、心配してくれてるんだから」
祥悟はクッションから顔をあげて、じと……っとこちらを見る。こういう拗ねたような表情が、いつもより少し幼く見えて……可愛い。
「んなこと、わかってるし」
「その顔の痣がもう少しマシになるまで、里沙とは会わない方がいいかもしれないね」
祥悟は急に思い出したように頬を撫でて
「まあな。あいつに泣かれるのは、マジで勘弁だし……」
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