第7章.揺らぐ水面に映る影

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「あ、祥。紅茶、いれなおしたから飲んでて。俺は、風呂の準備をしてくるから」 智也がそう言って、歩き出すと 「智也」 呼び止められて振り向いた。 「なんだい?」 祥悟は口を少し開けたまま、こちらを見て何か言いかけたが、思い直したようにぷいっとそっぽを向いて 「何でもねえし。……いろいろ、ありがと」 「どういたしまして」 智也は祥悟の横顔に微笑んで、リビングを後にした。 ちょっと険悪な雰囲気になってはらはらしたが、また和やかさを取り戻してほっとした。 でも問題は……夜だ。 気にしていないと思っていたが、祥悟はやはり、昨夜自分がマンションに帰ってしまって心細かったんだろうか。 自分の存在を気にかけてくれていた。 おまえにだけは、嫌われたくないと……言ってくれた。その言葉がじわじわと嬉しい。 自分はこの先、祥悟とどう付き合っていけばいいのだろう。 祥悟とアリサの件もショックだったが、それ以上に辛かったのは、彼に本命の想い人がいたことだった。自分が彼を想うように、祥悟もずっと想い続けているひとがいる。あんなにもせつなげな目をして思い浮かべるひとがいるのだ。 どんなひとなのだろう。 あの祥悟に、そこまで想われる女性。何事にも執着をみせない彼に、忘れたいのに忘れられないと言わせるほどのひと。 結婚はしないのだと言った。自分のものにすれば、不幸にしてしまうからと。 それは裏を返せば、それほどに祥悟にとって大切なひとだということなのだろう。 たとえ自分の想いが叶わなくとも、相手が幸せであってくれればいいと。 そんな風に大切に想われる女性が……羨ましい。 智也は、スポンジで浴槽を擦りながら、何度もため息をこぼした。 この先何年、彼を想い続けても、彼が自分に想いを寄せてくれることはない。 完全にノンケの祥悟が、自分を愛してくれる日なんて……永遠に来ないのだ。
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