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「あ、祥。紅茶、いれなおしたから飲んでて。俺は、風呂の準備をしてくるから」
智也がそう言って、歩き出すと
「智也」
呼び止められて振り向いた。
「なんだい?」
祥悟は口を少し開けたまま、こちらを見て何か言いかけたが、思い直したようにぷいっとそっぽを向いて
「何でもねえし。……いろいろ、ありがと」
「どういたしまして」
智也は祥悟の横顔に微笑んで、リビングを後にした。
ちょっと険悪な雰囲気になってはらはらしたが、また和やかさを取り戻してほっとした。
でも問題は……夜だ。
気にしていないと思っていたが、祥悟はやはり、昨夜自分がマンションに帰ってしまって心細かったんだろうか。
自分の存在を気にかけてくれていた。
おまえにだけは、嫌われたくないと……言ってくれた。その言葉がじわじわと嬉しい。
自分はこの先、祥悟とどう付き合っていけばいいのだろう。
祥悟とアリサの件もショックだったが、それ以上に辛かったのは、彼に本命の想い人がいたことだった。自分が彼を想うように、祥悟もずっと想い続けているひとがいる。あんなにもせつなげな目をして思い浮かべるひとがいるのだ。
どんなひとなのだろう。
あの祥悟に、そこまで想われる女性。何事にも執着をみせない彼に、忘れたいのに忘れられないと言わせるほどのひと。
結婚はしないのだと言った。自分のものにすれば、不幸にしてしまうからと。
それは裏を返せば、それほどに祥悟にとって大切なひとだということなのだろう。
たとえ自分の想いが叶わなくとも、相手が幸せであってくれればいいと。
そんな風に大切に想われる女性が……羨ましい。
智也は、スポンジで浴槽を擦りながら、何度もため息をこぼした。
この先何年、彼を想い続けても、彼が自分に想いを寄せてくれることはない。
完全にノンケの祥悟が、自分を愛してくれる日なんて……永遠に来ないのだ。
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