第7章.揺らぐ水面に映る影

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期待はしない。 ただ黙って想うだけでいい。 そう、自分に言い聞かせてきた。そう、思い込もうとしてきた。 けれど、今回のことで思い知ってしまった。 自分は彼が欲しいのだ。 想い続けたその先に、彼が自分を見てくれる日を、心密かに期待している。 彼が結婚するかもしれない。 自分の手の届かない場所にいってしまうかもしれない。 そのことに、情けないほど動揺する自分の本当の心を……自覚してしまった。 「距離を……置いた方がいいのかもしれないな……」 浴室にため息のようにこぼれ出た自分の声。 今までのようには、自分は彼の側にはいられない。祥悟のことを、あまりにも好きになり過ぎてしまった。 祥悟が風呂に入っている間に、自分が寝る部屋の準備をした。 彼が今寝室に使っているのは、もともとは智也の部屋だ。他に、もう随分使われていない客間が3部屋ある。 そのうちの、祥悟から1番遠い部屋のドアを開けた。ほとんど締め切っているから多少空気が澱んでいるが、しばらく窓を開けていたら大丈夫だろう。 智也は部屋の窓を大きく開け放った。 宵闇に溶け、淡い月明かりにぼんやりと浮かび上がる庭は、祖父が生きていた頃は手入れの行き届いた美しい日本庭園だった。 今でも定期的に管理人が手入れしているので、荒れ果てた状態にはなっていないが、あの頃に比べると精彩がなく、いかにも忘れ去られた庭という雰囲気が漂っている。 庭も生き物なのだ。愛してくれる人がいなければ、生き生きとは輝かない。 「愛される……か……」 自分は寂しいのだろうか。ただ密かに愛しているだけでは、やはり物足りなくなってきているのだろうか。 同じ気持ちを返してくれる相手が欲しい? ……それは……祥悟じゃなくてもいいのだろうか。 祥悟に恋をしてゲイだと自覚してから、彼以外の相手に目を向けたことはない。他の人間の入り込む余地など、自分の中にはなかった。 ……でも……。
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