第1章 舞い降りた君

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多忙な祥悟と、たとえ仕事の合間の休憩であっても、こうして一緒に喫茶室に来れること自体が珍しい。 祥悟の方はさっきの仕返しに奢らせてラッキーぐらいの気持ちだろうが、智也にしてみたらこれはデートだ。 決して顔には出さないが、実はものすごく嬉しかったりするのだ。さりげなく名前を呼び捨てにされているのも。 「ん~……やっぱ俺、これがいい」 祥悟はさんざん悩んだ挙句に、さっきの特大パフェを指差した。 「1人で食べるの?お腹壊すよ。いや、太るんじゃないかな。飯倉さんに怒られるよ」 智也が心配になってそう言うと、祥悟はにやっとして 「大丈夫。これぐらいで俺、太んないし。見て、この腹」 祥悟はそう言うと、白いブラウスの裾をぺろんと捲って 「細いでしょ、俺。多分そこいらの女子より、ウエスト括れてるよね?」 思わず見てしまった祥悟の腹は、確かにきゅっと引き締まっている。でも智也が釘付けになったのは、白くて手触りの良さそうな滑らかな肌だった。 智也はちらっと祥悟の顔を窺う。 このやんちゃ猫、また大人を挑発して揶揄うつもりか?と思ったが、どや顔して見せる祥悟に、妙な裏はないらしい。 「確かに細いね。ジムとか通ってる?」 智也がさりげなく視線をメニューに戻すと、祥悟は捲りあげた裾を戻して 「別になんもしてないよ。家で軽くストレッチとヨガやってるくらい。俺、痩せの大食いだから。体質的に太んないみたい。智也はジムとか通ってんの?」 「うん。たまにね。あ、すいません。このパフェとブレンドひとつ」 通りがかりの店員に注文をして、智也はメニューを閉じた。 祥悟は、店員が持ってきた水をごくごくと一気飲みすると 「はぁ~疲れたっ。あいつら、笑って笑ってってうるさいんだもん。面白くもないのに、そんな笑えるかよっ」 祥悟は自分の頬を両手でぐにぐにして、ぷーっとふくれてる。 本当に、撮影現場のあの春の妖精はどこにいったんだと、思わず突っ込みたくなる変わりようだ。 智也は微笑んで 「でもすごく良かったよ、君の笑顔。透明感があって、あの香水のイメージにぴったりだ」
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