第8章.硝子越しの想い

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情けない、みっともない涙声の自分の呟きに、抑えていた涙が一気に溢れ出した。 「俺は……っ、君の、兄貴じゃない。好きなんだ。愛しているんだよ、君をっ」 アリサをあそこに呼び出して、どんな話し合いをしていたのかは知らない。 でもせめて、彼女をあそこに呼ぶとひと言、自分に連絡して欲しかった。 あんな風に唐突に、見せつけられたくなかった。心の準備が必要だったのだ。 ……わかっている。祥悟は悪くない。 わかっているから、やりきれない。 床に放り出した上着のポケットの中から、携帯電話の着信音が響く。 あの受信音は祥悟だ。 智也は少しだけ顔をあげ、涙に濡れた目で上着を見つめた。 『なあ、智也。遅いんだけど? おまえ今日、こっち来るって言ったよね?』 受話器の向こうから聴こえてくるだろう祥悟の声。まるで本当に聴いているみたいに、鮮やかに頭の中に再現される。 智也は呻きそうになる声を押し殺し、鳴り続ける着信音に背を向けた。 「……無理だ。ごめん、祥。ごめんね」 一旦切れたベルが、再び鳴り始める。 智也は布団を頭から被って、彼からの呼び出しを拒絶し続けた。 目が覚めて1番に、上着のポケットを探った。 携帯電話の着信履歴は、全て祥悟からのものだった。 今日はオフだ。 本当ならば、昨夜は向こうに泊まって、今日1日、祥悟とあの家で過ごすつもりだった。 怪我の跡も薄くなり、例の件についても、根回しはしたから大きな騒ぎにはならないだろうと、社長から聞かされていた。 もちろん、既に予定されていた仕事のキャンセルや延期なども多く、祥悟にはそれなりのペナルティが課せられるだろう。ただ、彼のモデルとしての商品価値が揺らぐほどの事態は、避けられたようだった。 あの家で祥悟と過ごす時間も、あと僅かだと思っていた。1日ゆっくり一緒にいられるのは、今日で最後だとわかっていた。 祥悟が仕事に復帰したら、前よりも距離を置こうと決めていたからこそ、今日だけは智也にとって、特別な1日になるはずだったのだ。
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