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智也は、携帯電話を片手にベッドに戻って、力なく腰をおろした。
着信履歴を目で追いながら、出てくるのは深いため息ばかりだ。
昨日、行かなかったことを、祥悟はきっと怒っている。電話も無視してしまったのだ。せめて、急用が出来て行けなくなったのだと連絡するべきだった。
ひと晩経っても胸に燻る痛みは残っていたが、頭はだいぶ冷静になっていた。
「何やってるんだよ……俺は」
また大きなため息がこぼれた。
思いがけず、あの家で彼とアリサのキスシーンを目の当たりにしてしまい、頭が一気に沸騰した。裏切られたような気分だったのだ。
でも、冷静になって考えてみれば、社長は例の件で、祥悟とアリサに話し合いをさせると言っていた。その場所に、誰にも知られていないあの隠れ家は、最適だったのかもしれない。
祥悟が、自分に前もって話もせずに行動するのは、何も今に始まったことではない。
彼はいつもと同じ行動をしていただけだ。
自分の方に、それを冷静に受け止めるだけの心の余裕がなかったのだ。
「祥は別に、裏切ったりしてないよな。俺は恋人でも何でもないんだから」
口に出してみると、余計に自分が情けなくなった。自分で勝手に入れあげておいて、相手が自分の気持ちを察してくれないと怒るなんて、どうかしている。最初から見返りを期待して、自分は彼を好きになったわけじゃないのに。
あまりにも近くにいることを許されていたから、自分は彼にとって特別なのだと思い上がっていた。彼には彼の考え方も感じ方もある。彼が誰を好きになろうと、その相手と何をしようと、自分に彼を束縛する権利などない。
祥悟の言動を無神経で無自覚だと感じるのは、自分自身の気持ちの問題だったのだ。
そのことに気づけば、自分の取った行動の幼稚さが、情けなくて恥ずかしくなる。
「いい歳して本当に俺は……何やってるんだろうな」
智也はもう1度ため息をつくと、携帯電話の着信履歴を見つめた。
まずは祥悟に電話をして、昨夜のことを謝らなくては。
『ピンポーン』
唐突に玄関のチャイムが鳴った。
智也ははっとして顔をあげ、ドアの方に目を向けた。
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