第8章.硝子越しの想い

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智也は手元の携帯電話で時間を確認した。 まだ朝の8時過ぎだ。こんな時間に自分の所に訪ねて来るのは…… ……祥……? 前にもこんなことがあった。あの時も、祥悟が突然やってきて……。 「祥……っ」 智也は立ち上がると急いで玄関に向かった。 焦りながら鍵を外して、ドアを開ける。 「智くんっ」 名前を呼ばれ、突然抱きついて来られた。 智也は咄嗟に相手の身体を抱きとめながら、後ろにたたらを踏んだ。 「……っみ、瑞希……くん?」 自分の腕の中に突如飛び込んで来たのは、祥悟ではなかった。母の1番下の妹の子、つまり従兄弟の常葉瑞希だった。 「智くんっ、もう僕、ダメかもしれない。どうしたらいいんだろう」 智也は混乱しながら、腕の中の少年の顔を覗き込んだ。 「ちょ、っと待って、瑞希くん。どうしたの? 何があったんだい?」 瑞希とは、正月に実家へ行った時に会ったばかりだ。小さい頃はよく遊んであげた7歳下の従弟は、ここ2年ほど会わない間にぐんと背が伸びて、大人っぽくなっていた。 腕の中の瑞希ががばっと顔をあげる。その目は少し潤んでいて、悲しげに歪んでいた。 「僕、どうしたらいいかわからないんだ」 どうしたらいいのか分からないのは、こっちの方だ。 智也は内心ため息をつき、瑞希の背中をとんとんと優しく叩いて 「とにかく、中、入って? こんなとこじゃ落ち着いて話も出来ないから。ね?」 瑞希はぐすっと鼻をすすると、素直にこくんと頷いた。 「少しは落ち着いた?」 ホットココアのカップを両手で包むように持って放心している瑞希に、智也はそっと話しかけた。 瑞希は、はっとしたように顔をあげ、照れくさそうに微笑むと 「うん。ごめんなさい……。突然、来ちゃって」 「謝らなくていいけど……。でもびっくりしたよ。ここの住所、叔母さんに聞いたのかい?」 智也は自分用にいれた紅茶のカップをテーブルに置き、瑞希の斜め向かいの椅子に腰をおろした。 「うん。前に母さんに聞いてたから。1回、智くんのとこ、遊びに行きたいって、思ってて」 智くん、智くんと、彼が小さい頃の呼び方を連呼されて、なんだか面映ゆい。
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