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智也は首を竦めて苦笑すると
「遊びに来てくれるのは全然構わないよ。それより瑞希くん、いったい何があったんだい? どうしたらいいか分からないって、どんなこと?」
智也が穏やかに問いかけると、瑞希はちょっと迷ったように目をうろうろと泳がせて
「うん。あの……あのね、こんなこと、智くんに相談してもいいのか、よく分かんないんだけど……でも、他に僕、言えそうな人、いなくて」
言いながら、どんどん声が小さくなっていく。
こんな時間に、悲壮な顔をして自分を訪ねてくれた従弟を無下にはできない。もうダメかもしれないなんて言葉はよっぽどのことだろう。
智也はちらっと壁の時計を見てから
「ねえ、瑞希くん。話を聞いても、俺には何もしてやれないかもしれない。それでもよければ、聞くだけでもいいなら、話してみて?」
躊躇いながら瑞希が話してくれた内容は、智也にはまったくの予想外だった。
まさか自分の身内に、そんな悩みを抱えた人間がいたなんて……。
「それで、その大学生とは、もう会ってないのかい?」
「うん。会わない。会うわけない。あんな酷いこと……したんだし」
心につかえていたものを全て吐き出して、瑞希は少し放心しているようだった。目に涙を浮かべて、ぼんやりとカップを見つめている。
「お母さんに、俺から話してみようか?」
智也が思い切ってそう言うと、瑞希はバッと顔をあげてこちらを見て、ぶるぶると激しく首を振った。
「無理。ダメだよ、そんなこと。母さんが聞いてくれるわけない。それに僕、智くんにそんなこと、して欲しくない」
話を聞くだけだと自分から予防線を張りはしたが、聞いてみれば内容が内容だけに、この従弟の力になってあげたい気もするのだ。あの叔母が、自分の話にどこまで耳を傾けてくれるかは疑問だが。
「ねえ、智くん。智くんは僕のこと……軽蔑しない?」
「え?」
「その……そういうやつだって、こと」
「まさか。軽蔑なんかするわけないよ」
すかさず言葉を返すと、瑞希はほっとしたように頬を緩めた。その拍子に、目に溜まっていた涙がぽろりと頬を伝う。智也は手を伸ばし、そっとそれを指先で拭った。
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