第8章.硝子越しの想い

6/7
前へ
/261ページ
次へ
智也は首を竦めて苦笑すると 「遊びに来てくれるのは全然構わないよ。それより瑞希くん、いったい何があったんだい? どうしたらいいか分からないって、どんなこと?」 智也が穏やかに問いかけると、瑞希はちょっと迷ったように目をうろうろと泳がせて 「うん。あの……あのね、こんなこと、智くんに相談してもいいのか、よく分かんないんだけど……でも、他に僕、言えそうな人、いなくて」 言いながら、どんどん声が小さくなっていく。 こんな時間に、悲壮な顔をして自分を訪ねてくれた従弟を無下にはできない。もうダメかもしれないなんて言葉はよっぽどのことだろう。 智也はちらっと壁の時計を見てから 「ねえ、瑞希くん。話を聞いても、俺には何もしてやれないかもしれない。それでもよければ、聞くだけでもいいなら、話してみて?」 躊躇いながら瑞希が話してくれた内容は、智也にはまったくの予想外だった。 まさか自分の身内に、そんな悩みを抱えた人間がいたなんて……。 「それで、その大学生とは、もう会ってないのかい?」 「うん。会わない。会うわけない。あんな酷いこと……したんだし」 心につかえていたものを全て吐き出して、瑞希は少し放心しているようだった。目に涙を浮かべて、ぼんやりとカップを見つめている。 「お母さんに、俺から話してみようか?」 智也が思い切ってそう言うと、瑞希はバッと顔をあげてこちらを見て、ぶるぶると激しく首を振った。 「無理。ダメだよ、そんなこと。母さんが聞いてくれるわけない。それに僕、智くんにそんなこと、して欲しくない」 話を聞くだけだと自分から予防線を張りはしたが、聞いてみれば内容が内容だけに、この従弟の力になってあげたい気もするのだ。あの叔母が、自分の話にどこまで耳を傾けてくれるかは疑問だが。 「ねえ、智くん。智くんは僕のこと……軽蔑しない?」 「え?」 「その……そういうやつだって、こと」 「まさか。軽蔑なんかするわけないよ」 すかさず言葉を返すと、瑞希はほっとしたように頬を緩めた。その拍子に、目に溜まっていた涙がぽろりと頬を伝う。智也は手を伸ばし、そっとそれを指先で拭った。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加