247人が本棚に入れています
本棚に追加
自分にさっきの話をするのは、さぞかし勇気が要っただろう。途中何度か「自分も同じだから気持ちはわかる」と言ってあげたくなった。
でも言えなかったのだ。今まで誰にも打ち明けていない自分の秘密を、自分より年下の瑞希に簡単に告白する勇気はなかった。
智也はちらっと壁の時計を見て
「瑞希くん。君、今日は他に予定があるかい?」
「ううん。何も」
「じゃあちょっと、俺に付き合ってくれる?」
瑞希は手の甲で涙を拭いながら、首を傾げた。
「付き合う? どっか行くの?」
「うん。ちょっとね、約束している相手がいるんだ」
「え。じゃあ僕、お邪魔だよね? 一緒になんて……ここに居させてもらえたら僕……」
途端に眉を下げ尻込みした表情になる瑞希に、智也は微笑むと
「いや。君が一緒に行ってくれた方がいいかもしれない。うん。その方が、いいかな……」
今の自分の不安定な心理状態で、祥悟と2人きりで会うのはダメな気がした。第3者の瑞希がいてくれれば、自分の感情を剥き出しにするような事態はおそらく避けられる。
狡い考えなのは分かっていたが、自分の気持ちをコントロールする自信がない智也には、それが1番いいような気がしたのだ。
※章の途中ですが、次はSS「猫の気持ち(祥悟視点の挿話)」を更新します。
最初のコメントを投稿しよう!