SS『猫の気持ち』

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SS『猫の気持ち』

アリサを宥めすかして、ようやく屋敷から追い返すと、祥悟はため息をついて、ソファーに座り込み、クッションを両手に抱えた。 壁の時計にちらっと目を向ける。 もう21時過ぎだ。 ……何やってんのさ……智也。おまえ、今日来るって言ったじゃん。 19時過ぎには戻れると連絡をくれていたのだ。 1時間待っても帰って来ないから、祥悟は電話をしてみた。でも、智也の携帯電話に何度かけても繋がらない。 「腹……減ったし……」 独り呟いて、大きなクッション越しに、キッチンの方を見た。 冷凍庫には、峰さんが来ない時の為に、レンジで温めるだけの惣菜が入っている。全部、智也が用意してくれたものだ。 でも……。 あれを独りで、もさもさ食べるのはつまらない。味気ない出来合いのものだって、智也と一緒に食べるから美味しいのだ。 祥悟はぷーっと頬をふくらませて、もう1度携帯電話をポケットから取り出した。 智也からの着信は……ない。 もう1度かけてみようとして、やめた。 ソファーに電話を放り出す。 「来るって言ったじゃん。明日はオフだっつったろ。来ないなら電話くらい寄越せよな。……ムカつく。智也のばーか」 電話に悪態をついてみた。 ついでに、抱えているクッションを智也の顔に見立てて、両手でグ二ーっとつまんでみた。 ひとしきり、つまんだり叩いたりしてから、虚しくなってやめた。 「はっ。ばかだろ、俺」 再びクッションを抱き締めて、顔をすり寄せ埋める。 静まり返ったリビングに、時計が時を刻む音だけが小さく響いた。 昼間、智也から「明日はオフだからこちらに泊まる」と電話がきた後、社長が突然やってきて、怪我の謝罪を受けた。根回しは済んだから謹慎も解く。一緒に事務所に来いと言われたが、祥悟は今日は無理だと断った。 智也に何も言わずに、ここを去るのは嫌だったのだ。
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