硝子越しの想い2

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「ん……ん……」 耐えきれずに奪った瑞季の唇は、思ったより柔らかかった。 智也は、祥悟以上に華奢なその身体を、ソファーに押し倒してのしかかった。瑞季は一瞬だけ身体を強ばらせたが、すぐにくったりとして、自分の腕にすがり付いてくる。 酷い男が、忘れられない瑞季。 つれない男が、忘れられない自分。 虚しいとはわかっていても、今はお互いに縋る相手が欲しい。このひとときだけ、何もかも忘れて溺れてしまいたかった。 ……ダメだ。こんなこと、いけない。やめろって。 頭の片隅で、良心が微かに泣いている。 でも、久しぶりに深く絡め合った唇の感触は、温かくて甘くて、ひどく……優しかった。 「んんぅ……っ」 夢中で甘い蜜の感触に溺れていると、瑞季がむずかるように身を捩った。智也は少し我に返って、そっと口付けをほどく。 「……っごめん、苦しかった?」 「ん……だいじょぶ。智くん、ね、もっと……して?」 目元をうっすら染めて、恥ずかしそうに囁く瑞季は、さっきまでの彼とは別人のような、ほのかな色気をまとっていた。 智也は妙に昂ってしまった自分を抑えるように、ふぅ……っと細く吐息を漏らし 「いいの? 俺は」 問いかけた唇は、伸び上がってきた瑞季の小さな唇で塞がれた。しっとりと繋がった場所で舌がちろちろ動いて、一瞬冷めかけた熱を再び煽っていく。 ダメだと囁く良心の声が、また少し遠ざかる。 何故ダメなのか、何がいけないのか、今はもう考えたくない。 祥悟との関係に1人空回りし続けた徒労感が、智也の心をなげやりにしていた。 「ん……ふ……んぅ……」 瑞季の頭を押さえながら抱き寄せ、口付けを更に深くした。隙間なく密着して、零れ落ちそうになる心の嘆きを封印してしまいたい。 違う、そうじゃないだろう、と、叫びたくなる心など、今は麻痺させてしまった方がいい。
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