第1章 舞い降りた君

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智也は甘いもの全般、本当に得意ではない。でも少しは食べないと、折角の祥悟の笑顔が消えてしまいそうで。 智也はスプーンを取り上げると、パフェを見つめた。 ……フルーツぐらいなら、いける。よし、生クリームは避けて苺を……。 意を決してそっと苺だけ掬おうとしたら、目の前に生クリームがたっぷり乗ったスプーンが、にゅっと差し出された。 「口、開けて」 智也はちらっと祥悟を見た。眩しいぐらい無邪気な笑顔の祥悟が、首を傾げてじっと見ている。 すごく可愛い。 でも、この生クリームの量は……。 いや、でも、これはお口あーんと言うやつだ。まるで恋人同士みたいな……。 智也はすかさず両者を天秤にかけた。 苦手な甘いものを食べて、後で胸焼けするのと、好きな相手のお口あーんで、幸せな気分になるのとを。 結論はすぐに出た。 智也は恐る恐る口を開く。 どんなひと口だよ?っと突っ込みたくなる量の生クリームが、容赦なく口の中に押し込まれた。 目を白黒させて生クリームと格闘している智也に、祥悟はパフェにパクつきながら 「甘いもん苦手って、智也、酒とか強いわけ?」 智也はやっとの思いで口の中のものを飲み下すと、甘ったるい後味を消すために慌ててコーヒーを啜り 「ああ、まあね。うちは兄貴が2人とも呑んべえだから」 幸せそうにプリンを頬張った祥悟が、その言葉にばっとこっちを見た。 「兄貴2人もいんの?うわ。いいなぁ~智也。俺も兄貴、1人でいいから欲しかったし」 口の端に生クリームとチョコがついている。智也は苦笑して 「俺は姉貴か妹が欲しかった。野郎ばかりじゃ華がないよ」 言いながら、無意識に手が伸びて、祥悟の口の端のクリームを指先で拭っていた。そのまま紙ナプキンで拭こうとすると、祥悟が智也の手をがしっと掴む。 「もったいないじゃん」 祥悟は智也の指先をぺろんっと舐めた。予期せぬ一瞬の出来事に、智也はピキっと固まった。舐められた指先がじわっと熱い……気がする。 何事もなかったように、また大きなパフェに集中している祥悟の横顔を、智也はそっと見つめた。 控え室でのキスから、喫茶室でのデート。お口あーんに指先ぺろん。今日は予期せぬ事のオンパレードだ。 ……なんだろう。今日は特別な日なのかな。
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