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「あ……いや、俺は、別に」
ますます顔を背け、手を振りほどこうとする智也の手を、瑞季は逆に握り締めてぐいっと引っ張ってくる。
「智くん。泣いてたでしょ? 祥悟さんのこと、思い出しちゃった?」
瑞季の邪気のない言葉が辛い。引っ張られた手をもう一度振りほどこうとすると、瑞季は自ら手を離し、今度はガバッと抱きついてきた。
「……っ。瑞季、くん?」
驚く智也の身体に細い腕でぎゅっと抱きついて、瑞季は胸に顔を埋めてくると
「ごめんね。僕が智くんに、変なお願いしちゃったから。智くん……乗り気じゃなかったもんね」
「っ? いや、違うんだ。君が謝ることじゃ」
「僕……僕ね、寂しくて……亨くんのこと忘れたくて、智くんを代わりにしようとしたんだ。ごめんなさい。智くん、優しいから、つい……縋ろうとしちゃった」
そんなことはない。自分の方こそ、瑞季を祥悟の身代わりに抱こうとしたのだ。瑞季よりずっと歳上なのに、高校生の彼に縋ろうとしてしまった。
謝らなければならないのは、自分の方だ。
「瑞季くん。俺は、」
「智くんは、僕を抱いても忘れられないよね。祥悟さんのこと、すごく好きなんだもんね」
「……っ」
ずばりと言い切られて、返す言葉が見つからない。智也は瑞季の華奢な身体を優しく抱き締め、柔らそうな髪の毛をそっと撫でた。
「そうだね……。俺は、祥悟のことが、すごく好きなんだよ」
今まで、誰にも打ち明けたことのなかった想い。瑞季の遠慮のない、だがとてもシンプルで真っ直ぐな言葉に、智也はどこかほっとした気持ちになっていた。誰にも知られてはいけないと、ずっと1人で抱え込んできたから辛かった。瑞季の問いかけに、今は素直に答えたい自分がいる。
瑞季が胸から顔をあげて自分を見上げてくる。その黒目がちの大きな瞳に、智也は少し照れたように笑いかけ
「初めて会った時からね、彼は俺の天使だったんだよ。一目惚れ……っていうのかな。あれからずっと……祥悟のことが好きなんだ。絶対に叶わない片想いだけどね」
瑞季はちょっと眉を寄せ、何か言いたそうに口をもごもごさせた。
智也は瑞季の頭をもう一度優しく撫でると、背中を抱いてソファーに向かう。並んで腰を下ろし、ふう……っとため息をついた。
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